「お父さん、気をつけて行ってきてね」
「あぁ、瑠依、ごめんな」
「ううん、こっちはうまくやるよ」

 お父さんはごめんと繰り返す。外はもうすっかり本格的な秋の装いだ。だけど明日からまた暑さが戻るようだ。どっちつかずの季節は、どっちつかずの自分とかぶる。

 まるまると太っている月がこちらを見ている。まるで嘘つきなふたりをせせら笑うように。

 
「くれぐれもバレないように」
「てか、いっそのこと言っちゃった方がよくない? なんか騙してるようで心苦しいよ、おばさんもおじさんもこんなに優しくしてくれて」
「いや、ダメだ、それだけはダメだ、そしたら俺と誠二の友情に亀裂が入る」

 
「そっか、わかった、頑張るよ」

 
 お父さんの背中を見送った。見えなくなるまでずっと手を振った。そして振り返り今日から住むことになる家を見つめる。ごくんとひとつ息を飲み覚悟を決めて中に入る。