◇
「10月ムズないっすか」
「唐突ね」
「"オパール"も"トルマリン"も、型にはまらんってゆーか。色も形も」
「羨ましいわよね」
「へ?『羨ましい』?」
「凝り固まった概念に縛られず、自由で。
ありのままの好きな形でいられて。
それでも自分だと認めてもらえるなんて」
「あ、まさかの宝石目線の話?
ってか、麗子さんも十分自由でしょ」
「そう見える?
仕事でも、だんだんと異議を飲み込むことが多くなって。
結局、誰かの敷いた線路を歩かされてる自分に気付いて嫌になるわ」
「え、意外な情熱」
「見かけより真面目なのよ、私」
「あ!閃いた。ウイスキー飲めましたよね。
"オールド・ファッションド"にしよ」
「『我が道を行く』……嫌味ってこと?」
「ちゃいますよ。願掛けです。
麗子さんが好きな自分でおれますようにって。
今月の宝石たちのように」
「……言うようになったね。
もっと上手に励ましてくれない?」
「いやー。人生一周目の俺に、麗子さんの悩みが解決できる思わんでください。
困ったときの神頼みっ」
「いっそ清々しいわね」
「ってか。職場ではそないに窮屈でも、休みの日は?
そう言えば聞いたことないですよね。
頑なに、この店にはこーへんし」
「そうね。賑わっているここに、興味ないもの」
「あー。儚いのと、寂しいのが好きっていう悪癖ありますもんね。
あれは褒め言葉やったんやって理解するんに、1年かかったんすけど」
「変ね。これ以上のない賞賛なのに」
「……で、どうなんですか。休日の過ごし方」
「わざわざ話すような、大したことはしてないわ。平凡よ」
「例えば?」
「そうね……。
一日を家で過ごすこともあれば、ショッピングや、ダーツとか、たまに友達とディナーに出かけるくらい」
「……へぇ。麗子さん、お友達おったんすね。
まぁ、そらおるか……って。ん?
途中、なんて言いました?」
「ショッピング?」
「の次」
「ダーツね」
「ダ、ダーツ……
いやまあ、言われてみれば意外性はないかも」
「そうでしょ?」
「めっちゃ見たいです。やってるとこ」
「やってみたい、じゃなくて?」
「ムリっすよ。俺、そーいうのセンスないもん。
そや。店に導入しよかな、機械。
……いや、兄貴の許可おりんやろなぁ」
「着いてくればいいじゃない」
「え!いいんですか!」
「もちろん、君も投げるの」
「えぇ……。
あんまカッコ悪いとこ見せたくないなぁ」
「そんなの今更よ」
「え、ヒドイ。まぁええか。
えっと……次の休み……あれ。
今月もう店休ないやん。
来月の一番早い休みは…………あー。平日か」
「その日なら偶然、有給だけど」
「え、やった。じゃあこの日で」
「うん」
「……あれ?そーいえば麗子さん、
前も店休日に有給でしたよね」
「気のせいじゃない?」
「えぇ?……いやいや。
だってそのおかげで、一緒に買い物行けたんやないですか」
「たまたま、偶然よ」
◆