「10月ムズないっすか」


「唐突ね」


「"オパール"も"トルマリン"も、型にはまらんってゆーか。色も形も」


「羨ましいわよね」


「へ?『羨ましい』?」


「凝り固まった概念に縛られず、自由で。
ありのままの好きな形でいられて。
それでも自分だと認めてもらえるなんて」


「あ、まさかの宝石目線の話?
ってか、麗子さんも十分自由でしょ」


「そう見える?
仕事でも、だんだんと異議を飲み込むことが多くなって。
結局、誰かの敷いた線路を歩かされてる自分に気付いて嫌になるわ」


「え、意外な情熱」


「見かけより真面目なのよ、私」


「あ!閃いた。ウイスキー飲めましたよね。
"オールド・ファッションド"にしよ」


「『我が道を行く』……嫌味ってこと?」


「ちゃいますよ。願掛けです。
麗子さんが好きな自分でおれますようにって。
今月の宝石たちのように」


「……言うようになったね」


「ってか。職場ではそないに窮屈でも、休みの日は?
そう言えば聞いたことないですよね。
頑なに、この店にはこーへんし」


「そうね。賑わっているここに、興味ないもの」


「あー。儚いのと、寂しいのが好きっていう悪癖ありますもんね。
あれは褒め言葉やったんやって理解するんに、1年かかったんすけど」


「変ね。これ以上のない賞賛なのに」


「……で、どうなんですか。休日の過ごし方」


「わざわざ話すような、大したことはしてないわ。平凡よ」


「例えば?」


「そうね……。
一日を家で過ごすこともあれば、ショッピングや、ダーツとか、たまに友達とディナーに出かけるくらい」


「……へぇ。麗子さん、お友達おったんすね。
まぁ、そらおるか……って。ん?
途中、なんて言いました?」


「ショッピング?」


「の次」


「ダーツね」


「ダ、ダーツ……
いやまあ、言われてみれば意外性はないかも」


「そうでしょ?」


「めっちゃ見たいです。やってるとこ」


「やってみたい、じゃなくて?」


「ムリっすよ。俺、そーいうのセンスないもん。
そや。店に導入しよかな、機械。
……いや、兄貴の許可おりんやろなぁ」


「着いてくればいいじゃない」


「え!いいんですか!」


「もちろん、君も投げるの」


「えぇ……。
あんまカッコ悪いとこ見せたくないなぁ」


「そんなの今更よ」


「え、ヒドイ。まぁええか。
えっと……次の休み……あれ。
今月もう店休ないやん。
来月の一番早い休みは…………あー。平日か」


「その日なら偶然、有給だけど」


「え、やった。じゃあこの日で」


「うん」


「……あれ?そーいえば麗子さん、
前も店休日に有給でしたよね」


「気のせいじゃない?」


「えぇ?……いやいや。
だってそのおかげで、一緒に買い物行けたんやないですか」


「たまたま、偶然よ」