「麗子さんつきましたよ。
長い間乗らしてもて、すんません」


「いえ、運転ありがとう」


「やべ。ちょっと急ぎますけど、ヒール大丈夫ですか?」


「まあ、うん」


「あ、今更なんですけど……高所恐怖症やないですよね?」


「そうね。むしろ高いところは好きよ」


「よかった、ほな行きましょ!」


「……一体何をしようというの?
日没後の遊園地へ来て」


「アレ、乗ってもらいたいんです。俺と一緒に」


「アレ……って」


「観覧車!!」


「……すごい行列ね」


「えっ?
うわ、ほんまや!!はよいかな逃してまう!」


「あんなにお利口にまわってるゴンドラが、
私たちを置いて逃げるなんて思えないけど」


「まあまあ、すぐわかりますよ。はよ行きましょ!」


「いつにも増して騒々しいわね」


「当たり前やん。麗子さんの誕生日やしっ」


「本人より楽しんでどうするのよ」


「麗子さんにも『楽しかった』って言わせてみせますよ、絶対」


「……それにしても。
こんな時間の遊園地が人気だとは知らなかったわ」


「ちゃいますよ!今日はトクベツで……あ、来た。
足元きぃつけて乗ってくださいね」


「どうも。……それで?
ここへ来たのは、何か理由があるんでしょう」


「あー。今回は流石に気付かんか」


「……嫌な予感ならするわ」


「今月の石は、スピネルだけやなくて、"ペリドット"もでしょ?」


「そうね」


「ペリドットの和名って知ってます?」


「………まさか」


「そう! 橄欖石(かんらんせき)
やから観覧車っす」


「……はぁ。呆れた。
下手な駄洒落にもなってないわ。
どうしてそんなに自信満々の顔をしてられるの」


「うーん。
スベるのわかっとったけど、グサグサ来るわぁ。
でも、もちろんそれだけやないですよ」


「懲りないわね」


「…………あ!音する!!」


「え?」


「わー!!ベストタイミング!
ほら見て麗子さんっ!外!」


「………………花火……」


「晴れてよかった。
ちょい遠いけど、十分見えますね」


「……このためだったのね」


「綺麗やなぁ」


「…………そうね」


「……さて。
そのまま見とってくださいね。
ほんでちょっと、うしろ失礼します……」


「…………何?くすぐったい」


「はい。ハッピーバースデー、麗子さん」


「え?
………………あ。ネックレス……?」


「うわ!めっちゃ似合ってますよ!」


「この緑……もしかして」


「そう!これはほんまのペリドット。
この石、『幸福』とかの意味も持ってるでしょ?
だから、これもお守りにしてくれるかなぁって」


「………………」


「え。な、なんで無言。
……もしかして、気に入りませんでした?
『ちっこい雫型が可愛い』って店員さんも推してくれたんやけど…………」


「いえ、違うの。
とても素敵。ありがとう。
……………………そして、ごめんなさい」


「えっ!?」


「あの日の言葉、少し訂正するわ。
やっぱり、今でも十分よ」


「……へ?」


「今でも十分、他の女の子がほっとかないと思うわ。君のこと」


「え…………あぁ、"頑張らんでも"ってこと?
せやから、そんなん興味ないんですよ。
急に謝るから、振られるんかおもって焦ったわ」


「もっと他に、良い子がいるんだから。
私なんかに、こんな……
…………構ってくれなくてもいいって意味よ」


「……ってことは。
喜んでくれたってことですよね、麗子さん」


「……どう解釈したら、その結論になるの?」


「もー。素直やないなぁ」


「悪いわね。可愛げもないのよ、私」


「いや。めっちゃ可愛いです。
麗子さんが、いっちゃん可愛いです」


「………………」


「麗子さん以外に、こんなんおもえないですよ」


「難儀ね」


「……ねえ麗子さん。
どこまでなら、許してくれますか?」


「……どこって?」


「その……手繋ぐのは、ええですか。降りるまで」


「…………降りるまででいいなら」


「あ、待って。俺も訂正。
今日はずっと……や、これからもずっと。
繋いどいてええですか」


「……もう好きにすればいいわ」


「うっわ。麗子さん、手ぇちっさ。ほんで細っ」


「…………ねえ」


「はい」


「私を想い人にしてくれてありがとう、瞬」


「ええ!?」


「……そんなに驚く必要ある?」


「だって…………うわぁ……どうしよう。
……はじめて名前呼んでもらえただけで嬉しいとか。
中学生みたいやん、俺」


「ふ。やっぱり、垢抜けないね。瞬は」


「……もー、絶対わざとやん。
心臓もたんて…………」