「今月は『恋の予感』の"ムーンストーン"。
……ちゅうことで、今日の会場は店の屋上です」


「こんな勝手なことして、叱られないの?」


「大丈夫っすよ。このビル自体、オーナーのやし。
どうせ今夜も、お客さんは麗子さんだけやし」


「そう。……それにしても、素敵な眺めね」


「んー。満月やけど、やっぱ月見にはまだ早いなぁ」


「でも粋じゃない。苺のカクテルなんて」


「あ、気付きました?
6月の満月『ストロベリームーン』っていうらしいですね。
だから今日のは、"ストロベリー・フィールド"。」


「意外とロマンを重んじるわよね、君」


「え!『恋の予感』ですか?」


「そうね。もうちょっと頑張れば、
他の女の子がほっとかなくなると思うけど」


「あ、まだ頑張らなあかんのや。
ほんで興味ないっすよ、そんなん」


「じゃあ、どうしてバーテンダーに?」


「え。俺、モテたくてやってると思われてた?
そんなワケないですからね??
…………いやまあ、酒は好きやったし。
そんで、ツテがあって……とゆーか…………」


「なあに?歯切れ悪いのね」


「……オーナーが、その……兄貴なんで……」


「へえ、そうだったの。お兄さん、おいくつ?」


「えー、俺の5コ上なんで……31っすね」


「どんな方?君と似てる?」


「もうええんちゃいます?この話」


「だって、なんだか興味あるもの」


「……紹介しませんよ?」


「あら。
私、これでも一応、恥のない生き方をしてきたつもりだけど」


「ちゃいますよ。
……自信ないのは俺の方です」


「どうして?」


「だって……。
兄貴、頭も要領もええし……見た目もええし。
……そのくせまだ独身やし。だから……」


「つまり、私が靡かないか心配なの?」


「う……そうですけど」


「ふふ。試してみる?
『恋の予感』っていうものを」


「ぜっっっっったい、嫌」