「麗子さん」


「なに?」


「あれからもう1ヶ月経つんですけど」


「そう。はやいね」


「未だに店でしか会えてないのは、どういうことなんですかね?」


「私がここへ来てるから『会えてる』の間違いじゃなくて?
あら、今日のカクテルも爽やかで素敵」


「あ、ほんまですか?
好きそうかな思って、今日は"ホワイト・レディ"にしてみた……って。
今はそれどころちゃうんですよ」


「まだなにか」


「あの時の"x.y.z"って、そういう意味ですよね」


「そういえば。
結局、薄味なのは"ギムレット"だけだったのね」


「……え。あの。
一応はっきり聞いときますけど……。
付きおうてるんですよね……?俺ら」


「まあ、そういうことになるわよね」


「あ、よかった。
なんか微妙やけど、ギリ肯定や。
もはや夢やったんかな、とか本気で悩んだわ。
……いやいや、でもそれやったら。
もっとこう……あるやないですか」


「騒々しいね。君、私と何がしたいの?」


「いや……な、何って……。
そりゃもっと恋人っぽいこととか……」


「君の部屋には行かないよ」


「ええ!?
ちゃうよ、別に家来てほしいとかやなくて……!
……いやまあ確かに、来てほしいっちゃ来てほしいけども」


「もちろん来るのもダメ。まだね」


「……それ、要するに
まだ俺と関係を深める気はないってこと?」


「何事にも時期ってあるわよね」


「……えっと。参考程度にお伺いしますが……
いつやったらええんですか」


「——宝石のような日を重ねたら、かな」


「え、ムズ。」


「今月はね、"エメラルド"や"ヒスイ"よ」


「どゆこと」


「誕生石。込められた意味は『幸福』や『繁栄』。
来月は、"パール"や"ムーンストーン"たちね」


「え、毎月ちゃうってこと?」


「そう」


「ええ……どないしたらええねん……。
東大生でも解けんやろ、こんなナゾナゾ」


「埋めてほしいの。
君のせいで空になった、私の宝箱」


「あー…………。
……そんなん言われたら敵わんやん。
でも、お願いやからちっちゃい箱にしてくださいね。
すぐ埋まるように」


「ふふ。それも君次第、かな」


「とりあえずデートしたいです」


「どこに?」


「そやなぁ……エメラルドかぁ。
エメラルド……緑……
うーん……森林浴……いや、ピクニックとか?」


「及第点ね」


「え、採点方式?コワ……」


「胡瓜は外してちょうだい」


「えっと……なんの話してます?」


「サンドウィッチの話」


「あ……はい、もちろん持参させていただきます」


「ありがと」


「苦手なんや、きゅうり。
……ちょっとかわいいやん」