「みて、麗子さん。フグ!」


「そうね」


「あ、ハリセンボンもおる!!」


「……そうね」


「ウニ!!!!!」


「…………トゲのあるものが好きなの?」


「いやー。にしても、おしゃれっすねぇ。
ここの水族館のディスプレイ。テンション上がりますわ。
ほら、これなんて勝手に波が出来てますよ」


「評判の良さは、最近建ったばかりってだけじゃないみたいね」


「え、評判まで調べてくれたんですか?」


「……たまたま、耳にしただけよ」


「俺は"アクアマリン"って聞いたら、海しか思いつかんかったもんなぁ。
麗子さんの言う通り、ココにして正解でしたね。"サンゴ"も見られるし。」


「そうね。海開きには早すぎるもの」


「え、開いてたら泳いでた?」


「まさか。想像できないでしょう」


「そやね。なんなら海辺に居る姿すら想像できん」


「あ!」


「えっ、何!?なんかあった!?」


「クラゲ」


「え。あ、あぁ……うん……好きそう」


「今にも消えてしまいそうな、儚さが素敵よね」


「まあ、わからんでもないですね。
同じ時間軸で生きてるとは思えん、このゆったり感とか。
……集団で無感情に漂ってるの、ちょい怖くもありますけど」


「それがいいのに」


「……俺らはクラゲに成れないんすよ。麗子さん」


「……何の話?」


「いや、今にも言い出しそうやったから。
『こんな風になりたい』とかって」


「私の頭の中、そんなに透けてる?」


「全然。1割の経験と、9割の勘っす。
もっと透明でも良いくらいですよ、この子ら見習って」


「そうよね。
もし私が、全てを見せられていたなら——
『何考えてるかわからない』なんて言葉、
最後に贈られることもなかったのかしら」


「それって…………………」


「……ごめんなさい、今のは忘れて」


「…………わからんからこそ、知りたくなるけどね。俺は」


「ほんと……物好きよね」


「いやいや。
みんな気付いてないだけで、普通に沼ですよ。
麗子さんの、意外と慈悲深い所とか」


「評価対象、間違ってない?
私、冷たいと言われることがほとんどなのよ」


「そんなん、表面しか見てませんやん。
麗子さんは、情のある人でしょ。
それに、一方的な主観を押し付けることもせんし。
人をからかうことはあっても、傷つけたり、嫌な気分にさせるような言葉、絶対使わんし」


「それは、君が寛容なのが大きいと思うわ。
……それにしても、そんな簡単な基準でいいの?」


「それが簡単やないなってきてるんすよ、今は」


「あら。おかしな世の中のおかげで、随分ハードルが下がったのね」


「うーん、やっぱオカシイよなぁ。
純粋な賞賛や応援の声よりも、誹謗や中傷の方が本人の心に深く届いてまうのって、なんででしょうね」


「それは仕方のないことだと思うわ。
でも……全ての人に認められる必要、ないのにね」


「ほんとそう。
見てるだけで辛いっすよ。善意の声は、たくさんあるのに。
まるで『転売目的の奴にばかり、チケットが当選する』みたいな、やる瀬無さ。
いや勿論、そういう度が過ぎた行為をする奴が悪だと、わかってはいるんやけど」


「…………その例えは置いといて。
実力も、努力も踏みにじるような言葉は、耳に入ってほしくないわね」


「うん」


「せめて、当人がそこに懸けた時間、労力や想い……それらがあっての結果だと、理解ある人の言葉だけ届いてほしいって、祈るしかないのかしら。
その全てが賞賛だとは限らないことも、理解する必要はあるけれど」


「いやー。見分けるの難しいな、それ………
って、めちゃくちゃ話それましたね」


「そのようね。慣れないことをしたわ」


「俺、頭使うの苦手やから……
麗子さんとはいつも通り、浅ーいところで、寄せて返す波のような会話をしときたいんすよ。
"永遠に"ね」


「…………」


「あれ。流石に抽象的すぎた?
上辺って意味やなくて、そっちの方が素でおれるっていうか……」


「いえ、悩んだの。同意しても良いのか。
他意はないのよね?」


「え、他意?…………あぁ。
………あるって言うたら?」


「持ち帰って検討」


「それ、次までにちゃんと持ってきてくださいね」


「……努力するわ」