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「3……2……1…………
わーーー麗子さん、今年も明けましたね」
「おめでとう」
「あけおめです」
「年々早くなるわね」
「ほんま、あっという間っすね。
濃い一年やった気ぃもすんのに」
「私は、ずっとここで過ごしていたような気がするわ」
「ええやん。第二の家って感じで。
最初はこんな気に入ってもらえると思ってなかったけど。……勝手なことしてもーてたし」
「自宅から徒歩圏内なのが良いわよね」
「……それだけが理由ですか?」
「そうよ。他に何か」
「や、素直に言ってくれるとは思わんから諦めマス」
「賢明ね」
「さて。そろそろ年越しそばならぬ、年明けカクテルだしますね。
今回はオリジナルなんすけど」
「ありがとう。あら、この香り……
そっか。もう1月だから……今月は"ガーネット"ね」
「そうそう。
んで『柘榴石』なんていわれたら、そらもうザクロ以外は考えられんやないですか」
「そうね……あ、程良い酸味。美味しい。
ザクロのカクテルってあまり馴染みがなかったわ」
「そうですよねー。
そりゃグレナデンはあるけど、メインってわけにはいかんし、甘くなりすぎるんも……とか色々悩みまして。
かなり探した結果、ようやく理想のリキュール見つけられました」
「……それ、今回以外にも用途はあるのよね?」
「はは。まあナイですね。うちでは。
空き時間に自分で消費します」
「君……尽くすタイプって言われない?」
「そりゃもう。自他共に認める生粋の忠犬っすよ」
「難儀ね」
「麗子さんは猫ですね、間違いなく」
「私、爪切りで暴れたりしないわ」
「……ジョークのつもりっすか、それ。
もちろん内面の話ですよ。
つかみどころがなくて、媚びないところとか」
「褒め言葉として受け取るわね」
「まあ実際、そういうところが良いんですけど」
「……『難儀』としか思えないけれど、
語彙力失ったのかしら、私」
「てか、今回思ったんですけど……
ガーネットの[唯一無二]感、めっちゃかっこいいですよね」
「今となってはそうね。不動のオーラを感じるわ」
「なんかさぁ。自分だけが選ばれるって優越感、俺も味わってみたいなぁって。絶対鳥肌モンですよ」
「君のその特別感への固執……お兄さんと関係があるのかしら」
「あ、そうかも。コンプレックスってやつですかね」
「私には、二人の間に優劣があるなんて到底思えないわ」
「ええ、そんなん初めて言われましたよ。
俺の評価って、基本的に『永の弟なのに』からはじまるし。
俺の前で『ここに居るのが永なら』とか、しょっちゅうっすね。
あとは兄貴に振られた人から、腹いせで『代わりに付き合って』とかも言われたなぁ。
流石に断りましたけど。『代わりには、なられへんよ』って」
「……よく拗らせないでいられたわね」
「良くも悪くも、楽観的なこの性格のおかげっすね」
「あのね。君、気が付いてないだけよ」
「え、何に?」
「今のままで、十分すぎるほど秀でているってこと。
身勝手な他人の物差しを、何度も押し付けられていながら、
それでも他人への思いやりを捨てていない君は凄いのよ」
「……やっぱ麗子さんの言葉って、媚びがないですよね」
「そう?責任が取れる範囲のことしか、口にしない主義なの」
「そんな麗子さんに認めてもらえたら、
これ以上ない特別感があるんやろなって思う」
「認める、なんて私が言うのは烏滸がましいわ。
でも……君は、私の鎖を外してくれたでしょう。
その時点で既に、私にとって唯一無二なのよ」
「麗子さんにとっての……唯一無二……?」
「あら。気に入らなかった?
悪いわね、上手くなくて」
「…………あーーー………麗子さん」
「何?」
「好き」
「…………随分ストレートね」
「ね。麗子さんに贈るにはチープかなって思って言わんようにしてたんやけど。
なんかもう、これ以上の言葉思いつかんかった」
「同じだけ返せないこと、申し訳なくなるわ」
「ええんすよ。十分です。年越しも一緒にできたし。
でもやっぱ、もっと違う意味で麗子さんの特別になれるよう頑張ります」
「……受け止め切れるか心配ね」
「あ、言うの忘れてた」
「今度は何?」
「麗子さん、今年もよろしくお願いします」
「あぁ、それなら返せるわよ。
こちらこそ、どうぞよろしくね」
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