「さむぅ」


「そんな薄着だからじゃない」


「いやー。ケーキ屋と店の往復だけやし、いけるかなって」


「こんな簡単にお店を空けて、怒られるわよ」


「ヘーキっすよ。クリスマスのこんな時間に、ウチの店来る人なんていーひんので。
どーせみんな、ピカッピカの夜景を、ギラッギラの目で見ながら、キラッキラのシャンパン開けてる頃でしょ」


「……もっと微笑ましいクリスマスの例があったはずだわ」


「それより、このケーキ楽しみっすねぇ。
やっぱサンタ乗ってるのはマストですよねっ」


「随分と楽しそうね」


「昔からイベント事好きなんすよ。
12月からは3ヶ月連続やから、特にテンションあがってマス」


「3ヶ月?」


「クリスマスでしょー、お正月でしょー、ほんで誕生日!」


「2月なのね」


「そう。俺、2月14日爆誕。まさかのバレンタイン。
まぁでも……今思えば、誕生日はワクワク半分・ガッカリ半分やったなぁ……」


「どうして?」


「家でケーキ食べられるのは良かったんですけど……
友達からのプレゼントが、大体チョコやったんです」


「あら。苦手なの?」


「いや、チョコは好きやし、嬉しいんですよ?
でもなんか……ついでって感じがするやないですか。
特別感がないというか。
女子からも『他の人よりチョコ1個多めね』とか言われるんすよ」


「あげる側は楽でいいわね」


「嗚呼、哀しきお手軽バースデー……」


「じゃあ、特別感があるプレゼントって?」


「いやまぁ、そう言われたら特に思いつかんけど……。
………………あ」


「何?」


「…………次の誕生日に欲しいのなら、思いついた。
けど、嫌がられるかも」


「じゃあ言わないで。
私があげられるとも限らないんだから」


「麗子さんにしか無理っすよ。
"物"やないんですけどね、」


「結局言う気なんじゃない」


「麗子さんと一緒に、温泉いきたいです」


「………………希望として留意するわね」


「やっぱ、ダメですか?」


「チョコレートにしようと思ってるんだけど」


「そしてチョコもほしい」


「……考えておくわ」


「やった。めっちゃ楽しみ」


「聞いてる?肯定じゃないのよ」


「まってさっむ!!!手ェかじかんで鍵開けられへん」


「……はぁ。貸してちょうだい」


「こりゃ2月の温泉街なんて、もっと寒いっすよ。
麗子さん、あったかい格好してくださいね」


「…………はい、開いたわ」


「すんません、ありがとうございます。
はーーーあったかぁ。生き返るわ。
あ、麗子さん。今日はテーブルの方座ってください」


「今回は何をするつもり?」


「とりあえず、ケーキは食後として。
その前に、コレ。
オードブルとー、サラダとー、スープもいれますね」


「これ……全て自家製……?凄いわね」


「そんで、肝心のドリンクがコチラっす」


「…………綺麗」


「でしょ!瑠璃色に調整した"シャンパンブルース"に、食用金粉入れてみました。
中々のクオリティになって満足ですっ」


「まるで"ラピス・ラズリ"ね」


「えっっっ……嬉しー。さすが麗子さん。
そうそう。ラピスの再現なんすよ。
今回は完全に見た目重視…………やから、ちょっと柑橘強なってもたかも」


「むしろ嬉しいわ」


「ほんでメインはこれ。
クリスマスといえばのチキン!」


「……ちょっと待って。豪華すぎない?」


「だって。麗子さんが、プレゼント用意したらアカンって言うから。これくらいはね」


「ここまでしてもらっちゃ、禁止にした意味がないじゃない」


「麗子さん、言ったやないですか。
俺に『期待してる』って」


「そういう意味ではなかったんだけど」


「まあまあ。ごにょごにょ言わんと食べましょ」


「……やっぱり、欲しい物なんて事前に聞くべきじゃなかったわ」


「あ。俺の希望、叶えなアカン気になってきました?
そりゃラッキー、と言いたいとこやけど。
こっちが勝手にやったことなんで、気にせんでくださいね」


「それ、余計に気になるのよ。
…………意外と策士なのかしら」