◇
「さむぅ」
「そんな薄着だからじゃない」
「いやー。ケーキ屋と店の往復だけやし、いけるかなって」
「こんな簡単にお店を空けて、怒られるわよ」
「ヘーキっすよ。クリスマスのこんな時間に、ウチの店来る人なんていーひんので。
どーせみんな、ピカッピカの夜景を、ギラッギラの目で見ながら、キラッキラのシャンパン開けてる頃でしょ」
「……もっと微笑ましいクリスマスの例があったはずだわ」
「それより、このケーキ楽しみっすねぇ。
やっぱサンタ乗ってるのはマストですよねっ」
「随分と楽しそうね」
「昔からイベント事好きなんすよ。
12月からは3ヶ月連続やから、特にテンションあがってマス」
「3ヶ月?」
「クリスマスでしょー、お正月でしょー、ほんで誕生日!」
「2月なのね」
「そう。俺、2月14日爆誕。まさかのバレンタイン。
まぁでも……今思えば、誕生日はワクワク半分・ガッカリ半分やったなぁ……」
「どうして?」
「家でケーキ食べられるのは良かったんですけど……
友達からのプレゼントが、大体チョコやったんです」
「あら。苦手なの?」
「いや、チョコは好きやし、嬉しいんですよ?
でもなんか……ついでって感じがするやないですか。
特別感がないというか。
女子からも『他の人よりチョコ1個多めね』とか言われるんすよ」
「あげる側は楽でいいわね」
「嗚呼、哀しきお手軽バースデー……」
「じゃあ、特別感があるプレゼントって?」
「いやまぁ、そう言われたら特に思いつかんけど……。
………………あ」
「何?」
「…………次の誕生日に欲しいのなら、思いついた。
けど、嫌がられるかも」
「じゃあ言わないで。
私があげられるとも限らないんだから」
「麗子さんにしか無理っすよ。
"物"やないんですけどね、」
「結局言う気なんじゃない」
「麗子さんと一緒に、温泉いきたいです」
「………………希望として留意するわね」
「やっぱ、ダメですか?」
「チョコレートにしようと思ってるんだけど」
「そしてチョコもほしい」
「……考えておくわ」
「やった。めっちゃ楽しみ」
「聞いてる?肯定じゃないのよ」
「まってさっむ!!!手ェかじかんで鍵開けられへん」
「……はぁ。貸してちょうだい」
「こりゃ2月の温泉街なんて、もっと寒いっすよ。
麗子さん、あったかい格好してくださいね」
「…………はい、開いたわ」
「すんません、ありがとうございます。
はーーーあったかぁ。生き返るわ。
あ、麗子さん。今日はテーブルの方座ってください」
「今回は何をするつもり?」
「とりあえず、ケーキは食後として。
その前に、コレ。
オードブルとー、サラダとー、スープもいれますね」
「これ……全て自家製……?凄いわね」
「そんで、肝心のドリンクがコチラっす」
「…………綺麗」
「でしょ!瑠璃色に調整した"シャンパンブルース"に、食用金粉入れてみました。
中々のクオリティになって満足ですっ」
「まるで"ラピス・ラズリ"ね」
「えっっっ……嬉しー。さすが麗子さん。
そうそう。ラピスの再現なんすよ。
今回は完全に見た目重視…………やから、ちょっと柑橘強なってもたかも」
「むしろ嬉しいわ」
「ほんでメインはこれ。
クリスマスといえばのチキン!」
「……ちょっと待って。豪華すぎない?」
「だって。麗子さんが、プレゼント用意したらアカンって言うから。これくらいはね」
「ここまでしてもらっちゃ、禁止にした意味がないじゃない」
「麗子さん、言ったやないですか。
俺に『期待してる』って」
「そういう意味ではなかったんだけど」
「まあまあ。ごにょごにょ言わんと食べましょ」
「……やっぱり、欲しい物なんて事前に聞くべきじゃなかったわ」
「あ。俺の希望、叶えなアカン気になってきました?
そりゃラッキー、と言いたいとこやけど。
こっちが勝手にやったことなんで、気にせんでくださいね」
「それ、余計に気になるのよ。
…………意外と策士なのかしら」
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