そうして迎えた、初めての、全体練習の日。


放課後音楽室に集結したクラスメートたちの視線が刺さる。



小声で周りと話すクラスメートたちが。


もしかして、私の悪口を言ってるんじゃないか、って。


…一度そう思ってしまったら、もうダメだった。


バクバクと心臓が嫌な音を立てる。
血が凍るような感覚に襲われる。


また、身勝手な演奏だって言われてしまったら?

私の伴奏のせいで、クラスの雰囲気が悪くなってしまったら?


鍵盤の上に添えた手は震えていた。



一度大きく息を吐く。


大丈夫、大丈夫。


あの日だってうまくやれた。
普段からお母さんの前でするようにすればいいだけ。


心を殺せ、演奏に感情を出すな。
機械的に、楽譜通りに鍵盤を押せばいいだけ。


瀬川が片手を上げる。


それに合わせて、クラスメイトたちが一斉に瀬川の方に体を向けた。


ほら、大丈夫。

誰も私を見てない。

ただ背景として決められたように弾けば問題ない。



ーー彼の腕が滑らかに初めの四拍を刻む。


そこからは、あっという間だった。


頭が思考を放棄しても、感情が伴っていなくても、ずいぶん弾き慣れたからか勝手に指が動いていく。 

みんなの歌声は全然耳に入ってこない。

そうして気づけば、いつの間にか最後の和音を奏でていた。

無事弾き切れたことにほっと息をつく。