「うわ、瀬川の隣篠宮さんじゃん。天才二人の近くの席とかラッキー!篠宮さん、これからよろしくー」

「お前な、そうやって宿題とか教えてもらうつもりだろ。ごめん篠宮さん、相手しなくてもいいからね」


いつものように調子のいいことを言う広野くんに、それに釘を刺す瀬川くん。

いつもの見慣れた光景の中で違ったことは、そのやり取りが私の方向に飛んできたことだ。

突然話しかけられて固まる私とは対照的に、瀬川誠はいかにも好青年というように爽やかな感じでにこりと私に笑いかけた。
「これからよろしくね」という彼の言葉がそのまま耳を素通りしていく。


その整った鼻筋も、形よく口角のあげられた唇も、長いまつ毛に縁取られた透きとおるようにまっすぐな瞳も、まるで作り物みたいに綺麗で完璧だ。

それでいて男子にしては色白な肌をした彼は、日に透ける明るい茶色の髪を風に揺らしていた。



この容姿の上に運動も勉強もできるというのだから、なんてこの世は不平等なんだろう。
この世界に本当に神様がいるとしたら、彼は相当気に入られて恵まれて生まれて来たのだろうな、なんてどうでもいいことが頭に浮かんだ。


「…別に、大丈夫。こちらこそよろしく」


微妙に視線をずらしてなんとかそう返すと、彼は笑顔を向けて「よろしく」と頷き、それから長谷川君や周りにいた男子たちと話し始めた。

その視線が自分から外れたことを確認して、そっと息を吐き出した。
瀬川くんと話すのは、いつだって異常に緊張する。


(…全然、大丈夫じゃない)


さっき私に向けられた笑顔を思い出す。

誰にでも分け隔てなく、同じように向けられる笑顔に居心地の悪さを感じているのはクラス中できっと私だけだろう。



――いかにも好青年、というような爽やかで影のない笑顔。



…その笑顔が、私は怖くて仕方ない。


少しだけ本から視線を離すと、隣でクラスの男子たちと笑い合う瀬川くんがちらりと見えた。
男子たちと談笑しているときのその笑顔は、さっき私に向けたのと変わらず…まるで作り物みたいに綺麗で完璧だ。


……そう、“作り物”みたいに。


いつ見ても完璧な彼の笑顔。
少しの隙もない、優等生の笑顔。
眉の角度、口角の角度さえいつも寸分違わないんじゃないかと疑ってしまうくらい。

そして、何より違和感のあるのはその目。

絶妙なバランスで細められて、人当たりのいい笑みを演出しているその奥の瞳が、なんの感情も写していないように見えて仕方がない。