失望と言うよりは驚きの方が大きいし、…それに何より。

「ううん、…こっちの方が喋りやすいなと思っただけ」

ずっと感情の読めない作り笑いばかりを浮かべてる瀬川くんよりもよりも、今の瀬川くんの方がずっとずっと人間らしくて親しみやすい。


「…へぇ」

そんな私の本音に、瀬川くんは意外そうに片眉をあげてこちらをみる。


「…そっちこそだと思うけど」


「…?」


どういう意味だろう。

ぼそりと呟かれた言葉に、その真意が分からず首を傾げる。

瀬川くんはそれ以上のことは言うつもりがないみたいで、口をつぐんだ。

また、沈黙が流れる。
でもそれはさっきみたいな気まずい沈黙ではなくて、不思議と居心地の悪さは感じない。


「…私がやろうか、伴奏」


気がついたら、何でもないことのようにそう口にしていた。

たぶん、さっき楽譜を渡して音楽室から去らなかった時点で、私の気持ちは固まっていたんだろう。


「まだ代われるんだったら、だけど」

「…篠宮さんが?…それ、本気で言ってる?」


理解が追いつかない、というみたいにその目が見開かれる。

当然だ。
私だって、さっきまではこんな風に言う自分を想像もしていなかった。

だって私は、変化がなくて、必要以上に傷つかない日常を望んでいるから。