(よし。行くぞ!)
 薄暗い森の小道を、リナリアはゴトゴト、トランクケースのキャスターの音を立てて進み始めた。

 背の高い木々の葉が風に擦れてささやかな音楽を奏でている。

 見上げれば、自然の天蓋の向こうにオレンジ色の空。

(夕方に森に入るのは初めてね。あの子は起きているかしら。起きていたとしても、私に会いに来てくれるかしら。一週間も会えなかったから、存在を忘れ去られているかも……)

 不安に駆られ、きゅっと唇を引き結ぶ。

 五分ほど歩くと、開けた場所に出た。
 大きな岩が中央にどんと鎮座した場所だ。

 この岩のせいで木々は根を張ることができず、ここだけぽっかりと開いたようになっている。