「この魔物と会ったのはいつ?」
「一年前です。ザートの町の東部に広がる《魔の森》で出会いました」
「……。王宮から『彼』がいなくなったのは一年と少し前。リナリアと出会ったのが一年前。時期は一致する……」
 エルザは覚悟を決めたような顔をして、アルルをひたと見つめた。

「率直にお聞きします。あなたはイスカ王子ですか?」

名無し(イスカ)?)
 お世辞にも良い名前とは言い難い。名付けた親のセンスを疑う。

(何より王子って、どういうこと? アルルは魔物の王子様だったの? だとしても、何故エルザ様は敬語を使われるの? 魔物の王と密かに交流があったりするの?)
 リナリアの頭上の疑問符は増殖するばかりだ。

 アルルは数秒、返答に悩むように動かなかったが。
 やがて小さく、しかしはっきりと頷いた。

「……確定ね。なんてこと」
 片手で頭を抱えているエルザを見てから、次いで侍女を見る。
 リナリアの視線を受けて、ユマは首を振った。彼女も何もわからないらしい。