「エルザ様。どうかお聞きください。アルルは普通の魔物ではないのです。とても友好的で、人語を理解する賢い子で、絶対に人を襲ったりしません。私がいまこうして無事でいることが何よりの証拠です。信じてください」

 必死に言ったが、エルザの耳にはリナリアの言葉が届いていないようだった。
 エルザは怪訝そうに目を眇め、アルルの耳飾りを見ている。赤い宝石がついた耳飾りを。

「まさか……いやでも、これは……ユマ。戦闘態勢解除。待機を命じます」
「かしこまりました」
 侍女――ユマは頭を下げ、腹の上で手を重ねた。
 強烈な殺気が嘘だったかのように消える。

「……雪のように白い毛、蒼い瞳……王家に伝わる『炎の花』……あるいはレプリカ? 本物? 偽物……王子……」
 エルザはリナリアの正面へ回り込み、屈んでアルルを見つめてブツブツ呟いた。

 アルルはリナリアの腕の中でじっとしている。
 さっき受けたダメージのせいではなく、自分の意思でおとなしくしているようだった。

(どうなさったのかしら……)
 エルザの様子に戸惑っていると、急にエルザがこちらを向いた。