「アルルが喋れたらいいのに」
 気づいたら呟いていた。

 リナリアの小さな呟きに反応して、アルルの長い耳が動いた。
 うずくまっていたアルルが起き上がる。

「あ、ごめんなさい。独り言。寝ていいのよ」
 慌てて言うと、アルルは身体を横たえた。
 ただし、眠ろうとはしない。
 至近距離から青い目でじっとリナリアを見ている。

「眠れないの? それとも何かに悩んでるの? だとしたら、それはやっぱりセレン王子のこと?」
 喋れないアルルはただリナリアを見つめているだけ。

「……大丈夫。大丈夫よ。きっと全て上手くいくわ」
 なんの根拠もないけれど、とにかく元気を出してほしくて、リナリアはアルルの頭を撫でた。

「セレン王子は無事だし、私もアルルも無事。明日もきっと大丈夫。ね? そうでしょう?」
 アルルは目を開けたまま、彫像のように動かない。
 無音の時間だけが過ぎていく。