「あら、リナリア。浮かない顔をしてどうしたの? お父さまに呼び出されていたみたいだけど、一体どんなご用事だったのかしら」
 螺旋階段を上ろうとしたそのとき、背後から声がかかった。

 いつの間にか、ヴィオラが立っていた。
 花柄のドレスを着たヴィオラはニヤニヤと下卑た笑顔を浮かべている。

「……こんにちは、ヴィオラ様。旦那様は私に養子縁組を解消したことを告げ、今日中に家から出て行くよう命じられました」
「まあ、お父さまったら。王都から戻ってきたその日に追い出すなんて、残酷なことをなさるわねえ」
 予想はついていたくせに、ヴィオラは目と口を丸くして驚いてみせた。

「まあ、でも――良い気味だわ」
 くすり。ぽってりとした分厚い唇が、嘲笑を形作る。

「貴族《わたしたち》と違って魔法の一つも使えない、無能で卑しい平民風情が大それた夢を抱くからこうなるのよ。お前のようなみすぼらしい女が王子妃になろうなど、おこがましいにもほどがあるわ。身の程をわきまえなさい」