「アルルはこれまで何度も私を助けてくれましたから。顔も知らない誰かとアルルを天秤にかけるなら、アルル一択ですよ。迷う余地なんてありません」
「ふむ。聖女には向いていないな。一羽のウサギのために万人を見殺しにするなど論外だ」
「では私は万人から悪人の謗りを受けましょう」
 リナリアは動じずカミラを見つめた。まっすぐな瞳で。

「なるほど、よくわかった。一つ助言をしてあげよう。歌はあくまで手段であり媒体に過ぎない。いつだって奇跡を起こすのは人の強い願い。つまり、大事なのは心だ」
「…………?」
 意味がわからない。

(この人はさっきから何を言ってるの?)
 困惑している間に、カミラはわずかに頭を動かした。視線を転じたらしい。

「アルルくんにも有益な情報をあげよう。恐らく君がいま一番知りたい情報だ。セレン王子は無事だよ、安心したまえ」
「?」
 セレン・フレーナ・フルーベル。
 それはいまは亡き国王の第一王妃が産んだ第一王子の名前だ。
 病弱なセレン王子は滅多に公の場に姿を現さず、王宮で療養していると聞くが――何故セレン王子の情報をアルルに与えるのだろう。