「幼い子どもに暴力を振るうのは何よりも恥ずべき最低の行為です。子どもが声を出すのは普通のことではありませんか。あなたは大人でしょう、どうしてもっと寛容になれないんですか。さっきから散々うるさいと怒鳴り散らしていましたが、最もうるさいのはあなたです。あの子がいま誰のせいで泣いていると思っているんですか。あの子の泣き声に耐えられないというなら、あなたが降りてください!」
 言い切った直後、拍手が起きた。
 驚いて振り返れば、フードを目深に被った女性と老婆が拍手している。

「そうだそうだ! お嬢ちゃんの言う通りだ! よく言った!!」
 老婆はうんうん頷いている。

「満場一致で降りるべきが誰かは決定したな」
 凛とした声で女性が言う。

「確かこの辻馬車にはルールがあったな、トラブルを起こした乗客は降りてもらうと。ではルールに則り、即刻降りて頂くとしよう」
「待て、おい、待ってくれ!!」
 フードを目深に被った女性が上体を捻り、御者台に続く窓を開けようとしたため、中年男性は慌てて声を上げた。

 ここで下ろされ、王都まで歩く羽目になるのはさすがに嫌らしい。