「ちょっとあんた、止めなさいよ。幼い子どもを怒鳴りつけるなんて大人げない」
 老婆が中年男性の腕を引いたが、中年男性は煩わしそうにその腕を振り払った。

「うるせえ、そのガキの口を閉じられねえなら降りろ!! 耳障りだ!! 自分で降りねえなら窓から放り投げてやろうか、ああ!?」
 中年男性はあろうことか、男の子の後ろ襟を掴んで引っ張った。
 男の子の顔が恐怖で歪み、「おかあさーん!!」と泣き叫ぶ。

「止めてください!!」
 堪らずリナリアは鞄を置いて立ち上がり、中年男性の手を掴んで男の子から引き剥がした。
 男の子が母親に抱きつき、母親は男の子を庇うように身体を丸める。

「何だ、文句があんのかテメエ」
 中年男性は凶悪な形相でリナリアを睨みつけ、硬く拳を握りしめた。
 一瞬、怯みそうになったが、リナリアは負けじと踏ん張った。