蒼穹の下、一台の辻馬車がフルーベル王国の物流の大動脈と言える大街道を走っていた。

 この辻馬車は交易都市から王都ソルシエナまでを繋ぐ最も安価な交通手段だ。

 安価なだけあって作りは貧弱。
 魔物や野盗の類から乗客を守るための魔道具――魔力や魔石を動力源とする道具――も護衛もついていない。

 有事の際には乗り合った乗客総勢六人(+リナリアの鞄に隠れた魔物《アルル》一匹)と年老いた御者だけで対処しなければならないわけだが、リナリアは戦力面に関しては全く心配していなかった。

 男爵邸を出て一週間が経つが、アルルは何度もリナリアを守ってくれた。

 野宿の最中に襲ってきた魔物はアルルビームで焼き払い、街中でしつこく絡んできた男たちには軽い電撃魔法を食らわせて痺れさせ、リナリアが逃げる隙を作ってくれた。

 その度にリナリアはアルルを褒め称え、抱きしめて頭を撫でた。
 アルルが得意げに鼻を鳴らすのを既に五回は聞いている。

(本当に、アルルがいなかったらどうなっていたかしら……)
 アルルの入った鞄を大事に抱えつつ、リナリアは座る位置を変えた。