「…………」
 冷や汗を流しながら、リナリアはゆっくりと首を動かしてアルルを見た。

(嘘でしょう、この子……こんな力があるなんて……)
 ヴィオラは魔法が使えることを自慢していたが、彼女は長時間集中しても、小指の先ほどの大きさの火を生み出すのが精いっぱいだ。

 この国には爵位制度があり、上位から公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵となっている。
 一般的に爵位が上がるほど魔力が強いと言われているため、男爵の令嬢ならばたいした魔法が使えないのも仕方ないところではある。

 ではこの国の王族はどうかといえば、王子妃選考会の開会式で、国王テオドシウスは空中に巨大な水の塊を出現させ、見事な竜神の姿を描いてみせた。

 神業の如き魔法に、集まった歌姫たちや歌姫を支援する貴族たちはどよめき、惜しみない拍手を贈った。

 見た目の派手さなら、あのとき国王がしてみせたパフォーマンスのほうが上だろう。

(でも、いまアルルが使った魔法の精度と威力ときたら――)

 アルルは一瞬で正確無比に魔物を撃ち抜いた。
 周囲に立ち並ぶ木々や植物には傷一つつけることなく、魔物だけを。

 魔力の強い者ならば『高威力の魔法を全力で放つ』ことは簡単だろうが、果たして攻撃目標以外を巻き込まず、アルルほど完璧に魔法をコントロールできる者はどれだけいることか。