そのまま、私たちは、互いの知らない10年について、一頻り話し、気付くと、もう日が暮れてしまった。

「そろそろ帰らなきゃ…」

私が立ち上がると、中谷は駐車場まで見送りに来てくれた。

「笹川。俺が既婚子持ちだって誤解も解けたことだし、これ…」

渡されたメモには、中谷の電話番号が走り書きされてある。

私は小さく微笑み、

「ホントに、真夜中に呼び出しちゃうかもよ?」

そんな迷惑なことをするつもりはないが、わざとそう言ってみた。

「勿論いいよ。俺の方から言ったことなんだから」

「ありがと。じゃあね」

愛車に乗り込み、庭園をあとにした。

バックミラー越しに、手を振る中谷が小さくなっていく。

皮肉な再会をし、これまでにないほどいろんなことを話した。

子供の頃の私は、中谷のことを何も知らなかったし、当然ながら、その後のことも全く知らずにいた。