商品は瑞々しい野菜や果物、焼き菓子や乾物、果実水など、多種多様だ。

 視覚よりも嗅覚が強く食欲を刺激する。
 甘い焼き菓子や香辛料の香り、特に焼かれる肉の香りは堪らない。

 じゅうじゅうと煙を上げる屋台の串焼きを見て、お腹の虫が鳴る。

 追い出されるにしても、せめて昼食を食べた後にしてほしかった。
 今日は朝が早かったから、お腹が減って仕方ない。

 気づかないうちに私は屋台の前で足を止めていた。

 通行人の邪魔にならないよう、屋台のすぐ近くに寄り、無言で喉を鳴らす。
 食べたい。猛烈に食べたい。
 涎が零れてしまいそう。

 でも、ただでさえ少ないお金を無駄遣いするわけにはいかない。
 困窮している庶民が厚切りの豚肉なんて贅沢すぎる。

 駄目よセラ、冷静になるの……。

「じいさん、串焼き一つ」
「あいよ。一本百デリルだ」
 頭の中で食欲と理性が壮絶な戦いを繰り広げている一方、ちょうど通りがかった中年男性が無愛想な初老の商人から串焼きを買った。

「やっぱりログじいさんの串焼きは最高だなァ……塩加減が絶妙で……」
 目尻を下げ、頬を緩ませ、中年男性はぶつぶつ呟いている。