「私は旦那様の鳩尾《みぞおち》を殴り、うずくまって悶絶する旦那様の頭に回し蹴りをして意識を刈り取りました」

「………………え?」
 予想の遥か斜め上をいったであろう展開に、リュオンは唖然としている。

「いくら向こうに非があるとはいえ、やり過ぎたのよねえ……」
 遠い目をしながらオムレツをナイフで切り分けて、一口食べる。

「鳩尾を抉り抜いた一撃で止めるべきだったの。でもまだ旦那様の意識があったから、つい反射的にトドメを刺してしまったわ」

「反射的にトドメを……」
 棒読みで呟くリュオン。

「やっぱり女性と男性では地力が違うでしょう? 生半可な攻撃では反撃される危険性があるから。やるときは情け容赦なく徹底的に、全力で叩きのめせと護身術の先生から教わったのよ」

「護身術の先生?」
「ええ。実は私、レアノールの伯爵令嬢で、王子の婚約者だったのよ。夫婦生活を拒否したいときや、夫以外の殿方から強引に迫られたときに必要だということで、護身術も学ばされたの」

「どんな淑女教育だよ……」
 リュオンは呆れている。