どう答えたものか迷っているうちに、リュオンは話題を変えた。

「ところで、セラはなんでここにいるんだ? あのとき話してたのはミドナ語だろう? 出身はどこなんだ?」

「レアノールだけど……色々あって国を出たのよ」
 私は曖昧に誤魔化した。

「一か月ほど前からラスファルのとある富豪の家で侍女として働いていたの。旦那様は優しい方で、給金も弾んでくださったわ。働き始めたばかりの頃は最高の職場だと思ってた」
「過去形で話すってことは、そうじゃなかったんだな?」

「……ええ。その……旦那様は女性が大好きな好色家だったのよ」
 子どももいる賑やかな食堂で話すような内容ではないため、私は小声で言った。

「何度か身体を触られたけど、私は『お戯れを』とやんわり制してやり過ごしてきたわ。そうやって我慢したのがいけなかったのでしょうね。今日、とうとう、その……押し倒されそうになってしまって。叫んでも旦那様は既に人払いを済ませていたらしく、誰も来てくれなくて。そこで私は……」
 言い淀んで俯いた私を見て、リュオンは顔を曇らせた。

 リュオンの心労を解消すべく、顔を上げて白状する。