妹の手から放出された淡い金色の光は男の子の身体を包み込み、怪我を治して消えた。

 それでも男の子はうずくまったまま動こうとしなかった。
 心配する私をよそに、妹は私の胸から蝶のブローチを奪い取って背中を向けた。

 私はくれぐれも気を付けて帰ってねと言って男の子を背負った。

 妹はそんな汚らしい人間によく触れるわねと、呆れ果てた顔をして歩き去った。

 昼間に両親と観光したときに見つけていた診療所に向かって歩き出すと、私の背中で男の子が何か言った。

 男の子が喋っているのはレアノールで使われているミドナ語ではなくロドリー語だったから、何を言っているのかは全然わからなかった。

 結局伝えられたのはお互いの名前だけ。

 私が「セレスティア・ブランシュ」と名乗ると、男の子は「リュオン」と名乗った。

 やがて診療所に辿り着き、医者にリュオンを託して去ろうとすると、彼は私の手を握って何か言った。

 それが「ありがとう」という言葉であることは、ロドリー語がわからなくてもわかった。

「あなた――リュオンなの!?」
 八年前に出会った男の子の魔女その人だったの!?

「正解。久しぶり」
 目を見張るほど美しい青年へと成長した彼は嬉しそうに笑った。