「……そんなに笑わなくても良いじゃないですか。私は本当に困窮してるんですよ」
 恥ずかしさに頬を染めて俯く。

「そのようですね。八年前とはまるで立場が逆です。一体どうしてそんなことになったのか是非聞かせてください、セレスティア・ブランシュ?」
「え……?」
 私はぽかんとして彼を見つめた。

 レアノール王国を出て海を渡り、遠く離れたロドリー王国のこの街で暮らし始めて約一か月、私は「セラ」という偽名を使ってきた。

 本名を知る人なんているはずがないのに――待って、いま彼は何と言った?

「八年前って……」
 思い出す。

 八年前の秋、私は家族旅行でロドリー王国を訪れた。

 夜も更けた頃、両親が眠っているのを良いことに高級宿を抜け出したイノーラを追いかけて――妹に何かあれば私が折檻される――私は厚手のケープを羽織って外に出た。

 帰ろうと訴える私を無視して妹は好奇心の赴くままに王都を歩き、道に迷って人気のない路地裏に入り込んだ。

 そこで私たちは壁に背中を預けてうずくまっている男の子を見つけた。

 恐らく貧民街の子どもなのだろう。