「ニーナを側妃にする?」

 ケインとその隣にいるご令嬢、セラを俺は冷ややかな瞳で見ていた。ニーナがもうすぐ成人するというタイミングで、ケインはセラと恋仲になり、あろうことかセラを正妃にしようとしているのだ。

「ニーナは第二王子の妃としてよく勉強しているし、家柄も申し分ないご令嬢だよ。でも、いくら王家と古くから縁のある伯爵家といえど、セラの方が家柄の身分は上だ。……なによりも俺はセラを愛してしまったんだ。ニーナではなくセラを正妃にしたい」

 ケインの言葉を聞いて、俺はセラを睨みつける。するとセラは怯えてケインの腕にしがみついた。

「ニーナはこのことを?」
「側妃のことはまだ話していないが、俺とセラのことは知っている。セラとは仲がいいみたいだ」

 ため息が出る。あろうことか婚約者を横取りするような相手と仲良くしているだなんて、お人よしにもほどがあるだろう。……いや、あいつはそういう子だ。純粋で真っすぐで、どんな人間にもきっといいところがあるはずだと思っているのだ。

 ニーナを側妃にする?側妃になったとして、もしニーナに子供ができたら。俺や俺の母のように、肩身の狭い思いをして生きていかなきゃいけないかもしれない。ニーナとニーナの子供に、そんな思いをさせるなんて絶対に許せない。

「……だったら、ニーナと婚約をとりやめてくれ。おれがニーナと婚約する」

 俺の言葉を聞いて、ケインは目を輝かせた。

「もしかして、イオはニーナのことを……?ははは、そうか、そうだったのか!そういえば、俺とニーナの顔合わせの時に、迷子になったニーナを連れてきてくれたのはイオだったな。そうか、あの時から……」

 嬉しそうに言うケインに、セラはホッとした表情になる。まるで自分たちの罪は消えたかのように思っているみたいで、胸クソ悪い。

「イオがニーナの相手なら、俺も大賛成だよ。わかった、婚約はすぐにとりやめよう」
「……あぁ」