ジュリアは家の執事1名、護衛騎士1名、そして自分付のメイド1名だけを連れて街に出た。
行き先は王家御用達の仕立て屋だ。

婚約者である私のドレスは、恐らく王家御用達の仕立て屋に依頼するだろう。
そこへ先回りしたのだ。


王家御用達の仕立て屋は町はずれの丘の上にあるとメイドから教えてもらった。
確かに丘の上には真っ白な壁が印象的な小さなお城のような佇まいの建物が建っている。これが御用達の仕立て屋のようだ。
話によれば、王家のドレスなどはこの店が一手に引き受けていると言う。

仕立て屋はジュリアが直接訪問したことに驚いている。
ドレスのデザインが決まると、仕立て屋が採寸に出向くのがこの世界の習わしだと小説で知っていたので、驚かれるのも想定内だ。


「ま…まさか…ハーベスト家のご令嬢にお越しいただくとは、恐れ多い事です。こちらから伺う予定でしたのに、いかがなされましたか。」


「一つお願いがあって来ましたの。このドレスは王家から送られるとても大切なものだから、万が一馬車で汚したり、皺になっては大変ですので、できればお城に着いてから着替えるなんて、我儘は無理でしょうか。頂いたドレスを最高の状態で着ることが、私にできる最大の御礼だと思いますの。いかがでしょうか。」


仕立て屋の店主は私の真剣な表情に共感してくれたのだ。
女優になれそうな名演技だと自画自賛。


「確かにドレスに皺がついたらデザインも台無しです。お嬢様のおっしゃる通りです。お城に私からお願いして着替える部屋も用意してもらいましょう。…お嬢様のお気遣いは素晴らしいですね。」


(…ふぅ…これでドレスボロボロ事件は回避できるわね…)