私はハーベスト家が通される予定である応接室の隣の部屋に陣取った。

城の中は隠れるのにとても便利だ。
殆どの部屋には、護衛騎士や執事、メイドが控える控の間のような部屋があるのだ。

部屋内の話し声も聞こえるし、これは好都合だ。

ジュリアが控の間で身を潜めていると、そこにハーベスト家の父親、義母、妹のミシェルが通されたようだ。

対応する王家の方々がまだ来ていないので、家族が話している声が聞こえる。

まずはお父様の声だ。

「私はミシェルを婚約者に推薦は反対だ。ジュリアの安否もわかっていなにのに、そんなことは出来ない。お前たちはジュリアが心配ではないのか!」

(…お父様ありがとう。ジュリアは無事ですよ…黙っていてごめんなさい…)

お父様に言い返したのは義母だった。

「私達だって賊に襲われて恐かったのよ。ジュリアは連れて行かれて残念だったけど、王太子様の婚約者は、もうジュリアには無理よ。だから婚約者はミシェルに変更してもらえばいいわ。貴方は余計なことを言わないでくださいね。」


さらにミシェルが会話に参加する。


「そうよ、もともと王太子様の婚約者は私のほうがふさわしいわ。あんな黒髪のお姉様より私の方が王太子様にお似合いだったのよ。」


(…いつもながらミシェルの自信には驚くわ、確かにあなたは美しいけどね…)



すると、部屋をノックする音が響いた。

“トン、トン、トン”

「ブラッドフォード王様、王太子様がおいでになりました!」

執事の声に続き、護衛騎士がドアを開けたのだ。

ハーベスト家の3人は立ち上がり頭を下げた。

ブラッドフォード王様が声を出す。


「待たせたな、そんなに畏まらなくて良いぞ、頭を上げて椅子に座りたまえ。」


ジュリアは控えの間で聞き耳を立てている。


王様が続けて話し出した。


「ジュリア嬢の件では災難であったな。さぞかし心配なさっておるだろう。」


続いてお父様が声を出す。


「娘のジュリアのことでお気遣いいただき感謝至極でございます。王太子様とご婚約をさせて頂いたのに、このようなことになり家族全員心を痛めております。」


すると、我慢が出来なかったのか、義母が声をあげた。


「僭越ながら王様、王太子様にご提案がございます。ハーベスト家にはもう一人娘がおります。ここにおりますミシェルはジュリアの妹でございますので、こんな事を申し上げるのは心苦しいのですが、ジュリアとの婚約を破棄して妹のミシェルを婚約者にお迎え頂けないでしょうか。ミシェルはジュリアより器量がよく、貴族の娘としての教養も身に着けております。王太子様お考えいただけないでしょうか。」


それまで何も言わなかったアレックスが声を出した。


「なるほど…そのほうが妹のミシェル嬢か、姉のジュリア嬢が心配ではないのか。」


ミシェルは白々しく悲痛な声を出した。


「もちろんお姉様のことは心配ですわ…どうかご無事でいて欲しいと、事件以降ずっと祈っておりますの。」


するとアレックス様は独り言のような小さな声を出した。


「よくもまぁ…ぬけぬけとその様なことを言えるな。」


ミシェルは良く聞こえなかったようで、もう一度アレックス様に問いかけた。


「あの…今なにかおっしゃいましたか…。」