「……今日来ないんだな。春乃さん」


「……」


「風邪とか?」


「あーこの時期たまにそういう奴いるよな」


卒業式1週間前の月曜日のお昼休み。


今日もいつも通り春乃が来るんじゃないかと、うんざり気味にお昼の弁当を食べていた。


「桐生、今日のお昼も凝ってるね」


「…そうか?」


「レストラン並みじゃん。ね、そのハンバーグちょうだい?」


「渡すか。今日の数少ない俺の肉…」


「あ、美味しいね、これ。もう一口貰うね」


「あ“、こら!返せ」


「イヤだよ〜だ」


ウィンクをして舌をペロッと出し、両手で手を合わせる、いわゆるあざとい男子である目の前にいる奴は、

一応中学校1年生の頃からの親友である世良郁人(せらいくと)。


表面上はこの通り、“あざとくて可愛い”でまとまる男子なんだが……


「!いく〜2年の女子がお前のこと呼んでんぞ〜」


「……あー…オッケーオッケー」


クラスの男子に愛想のある笑顔を振り撒いて、


明るい声で応えた郁人は、


「はぁ…めんどくさ。どうせフラれること分かってんのにさ」


チッと小さく舌打ちをして、「すぐ戻る」とさっきとは違う低いトーンでの冷たい声を俺にわざわざ吐き出して、


2年の女子の方に行った。


───これが郁人の本性である。