「……イリウス様がメアリ様へ向ける気持ちや行動にいつもドキドキしていました。こんなにも一人の相手を心から思い愛することのできるイリウス様をとても……素敵だと思っていました」

 エルレアのひとつひとつの言葉にイリウスの胸は高鳴る。

「ずっと人々のため、国のためにと聖女として力を使い忙しい日々を過ごしていましたが、小説を読むたびに幸せな気持ちになれたんです。小説の中でイリウス様に出会えることが私にとって日々を頑張る力になっていました」

 そう話すエルレアの表情はその日々を思い出しているようで少しずつ微笑みが浮かんでくる。そんなエルレアを見て、イリウスは嬉しさと苦しさが入り混じった不思議な感情に襲われる。
 エルレアが嬉しそうなのは小説の中の自分について語っているからで、そんな小説の中の自分に対して嫉妬すら思えるほどだ。
 
「でも、あんなにも人々のため国のためにと頑張っていたのに、最後は裏切られて誰からも信じられることのないまま死ぬことになりました。……私は、誰にも愛されず、無惨に……殺された……。こんな私でも、いつか、どこかで、たった一人の人に、心から愛されてみたいと……思っ……」

 微笑んでいたはずなのに、途中からポロポロと涙を流し嗚咽をこらえそれでも必死に言葉を紡ぐエルレアを、イリウスはいつの間にか抱きしめていた。

 イリウスの腕の中でエルレアはうめき声をあげる。こんなにもか細く繊細なのに、それでも人々のために必死に頑張ってきたエルレアを、その国の人々は信じようともせず処刑したのだ。
 イリウスはどうしようもない怒りを感じるがどこにもぶつけようがない。その世界はこことは別の場所なのだから。

 どのくらい抱きしめていただろうか。腕の中のエルレアが泣き止み静かになったのでそっと顔を覗き込むと、泣き腫らした目でイリウスを見つめそっと微笑んだ。

「私は……ここに来てからイリウス様と出会って本当に、嬉しかったんです。きっと死ぬ間際に一時の夢が見れたのだと。でも、メアリ様がイリウス様の本当のお相手だから、やっぱり私はイリウス様のそばにいてはいけないと思っ……」
「エルレア」

 エルレアの言葉を遮ってイリウスはエルレアの両肩を掴んだ。驚いたエルレアはイリウスを見つめている。

「君がどこから来てどう思おうと、僕の気持ちは変わらない。僕は君が好きだ。僕のそばには君がいてほしい。他の誰かではダメなんだよ」
「でも、……私はイリウス様との記憶がありません。ここに来る前までの記憶が全くないんです」
「それでも良いよ。君にその記憶がなかったとしても、僕の中にはちゃんとある。君のお兄さんにだって、他のみんなにだって、君との記憶が、日々がちゃんとあるんだ。それに」

 そっとエルレアの両手をとってイリウスは微笑む。