宗介は恋を無視していた。

 声をかけても冷たい表情でシカトして、返事を返さない。

 冷戦状態のそんな日々が続いていた。








「今度の日曜、新田さん、絵の展覧会に行かない?」


 放課後。


 教室の入口から2人で出て、鞄を背負った䄭風が言った。

 恋と䄭風は、この頃は放課後もいつも一緒に居た。




「日曜ごとに出掛けようよ。車で。あ、親が居ない方が良かったら、電車とか使おうよ。」

「うーん……樋山くん、悪いけど……」

「何で?何か都合悪いの?。そうやってはぐらかさないで。ちゃんと、僕と思い出作ってよ。」


 
 恋が宗介と別れて以来、䄭風は颯爽として機嫌が良く、いつも明るく恋に自分の事を喋った。



「新田さんが上野と別れて嬉しい。僕ずーっと順番待ってた。こうなるって分かってたよ。」

「樋山くん、付き合うのはちょっと……」

「嘘。もう僕達は付き合ってる。邪魔者が居なくなって、晴れてゴールイン。新田さんに、すぐに上野なんかより僕の方が良いって分からせてあげる。」

「……」

「何か不満?」



 タタン、と階段を降りた䄭風は、くるりと振り向くと、階段の踊り場で、恋を壁際に軽く押し付けた。


「不満があるなら言えば良い。直すから。僕、君の言う事何でも聞くよ。」


 顔の右上、壁に置かれた手を見ながら恋は躊躇した。



「新田さんを守る忠実な騎士になる。もし王子様の方が好みだったらそっちでも良いし。」

「待って……」

「無理。ごめんね。」



 䄭風が笑顔で言った。 


 それから当然の様に䄭風は恋にキスした。

 窓から入る午後の日差しが2人を照らしている。

 唇を離した後䄭風はくすくす笑いながら幸せそうにこう言った。


「泣くっていうの嘘だよ。優しい人、僕が一生傷つかないように守ってあげるよ、恋」