宗介は、新聞部が嫌いだった。

 自分と恋についてあることないことを書くし、恋愛事件の報道しかしないのも、馬鹿だと思っていた。

 伊鞠と桂香について、変な人達、と思っていて、半分不審者扱いしていたが、その変人達が役に立つこともある。



 委員会から戻ってきた宗介は、教室で帰りの支度をしていた。

 宗介は支度が早い。

 ドアを開けてすぐに教室を出ようとした宗介は、入れ違いに誰かとぶつかりそうになった。


「すみません」


 反射的に言ってから、相手を見ると、そこに居たのは新聞部の伊鞠だった。



「……。」

「上野くん。」



 宗介は表情を戻して、無視して出ていこうとした。

 すると、伊鞠が大きな声で呼び止めた。



「スクープ!」

「……何ですか」



 宗介が嫌な顔をして伊鞠を見返す。

 腕を組んだ伊鞠は、口を開いた。



「スクープよ、上野くん。あなたに関する情報を知りたいと思って?」

「……良いです、要らない」



 宗介が言って、歩き出そうとすると伊鞠が前に回った。



「あなたと新田さんに関することよ。良いの?」

「恋に?」



 宗介が訝しげにすると、伊鞠は浅く笑った。



「知らないのは彼氏ばかり。かわいそうに」

「何ですか、失礼な。恋がどうかしたなら言ってくださいよ。」

「新田さんがね。」



 伊鞠が言った。



「どうしようかな、言おうかな、言うのやめようかなあ」

「……。」



 あからさまにふざけたリアクションに宗介が無言でいると、伊鞠が口を開いた。



「なーんて冗談冗談。教えてあげるわ。さる確かな情報筋によれば、新田さん、今度の日曜、樋山くんとデートするそうなのよ。」

「!」

「それを記事にしても良いんだけど、ちょっと都合があるから、教えといてあげようと思って。」

「……」



 宗介は無表情だ。


「場所は、自然公園。時間は10時頃。」


 黙ってしまった宗介に、伊鞠が聞いた。



「キミは連れ戻すの?」

「……別に。」

「新聞部は、どちらかといえばカップルを優先するのよ。」



 伊鞠が言った。


「心の触れ合いがある仲良しカップルを推奨しているの。一応だけど。それじゃ頑張ってね。」


 踵を返し立ち去った伊鞠に、1人残された宗介は、しかめっ面でしばらくその場に突っ立っていた。