この間と同じ様に、恋達B班は教室の外に出て社会の調べ学習をすることにした。

 今度の学習場所は図書室だった。


「そろそろ資料を集めようか。」


 クラスメートの1人が言った。



「商店街についての歴史、資料あるだけ持ってきて。」

「オーケー」

「了解」



 恋は地域の資料が図書準備室にあるのを知っていた。

 恋が1人で図書準備室に入ると、部屋はカーテンが閉まっていて薄暗かった。 
 
 棚にある地域についての資料を恋が捲っていると、ガラガラと戸が開いて、後ろから䄭風が入って来た。


「ここ誰もいないね。」


 䄭風が口を開いた。


「ちょうどよく秘密の話ができる。新田さん、何も喋ってくれないの、怒ってるからね。」


 恋は困った顔で樋山くん、と呟いた。

 宗介に悪い、とか、はたまた喋らないと樋山くんに悪い、とか、考えて恋はますます困った顔をした。


「上野と早く別れて欲しいんだけど。」


 䄭風が口を開いた。



「なんで僕を選ばないの。この間デートして分かったでしょう。僕と君はぴったりだ。」

「……。」

「そういう顔して、被害者ヅラしてないで、何とか言ったら?。しゃんとしなよ。へたれてないで。」

「悪いけど……」


 
 恋は樋山くんとは付き合えない、と小声で言った。



「宗介が怒るからじゃなくて、二股、する気なくて、樋山くんとは付き合えないよ。」

「どうして?。」

「どうしてっていうか……」

「それってどういう意味?。僕の事少しも好きじゃないの?。」



 䄭風が聞いた。

 恋は言い淀んで俯いた。



「好きだけど……」

「まだ上野よりは好きじゃないって言いたいんだ。そうでしょ?」


 
 恋はためらいがちに頷いた。

 宗介はいつでも恋の運命の幼なじみだったが、䄭風は突然現れた王子様だった。

 自分に向かって微笑む王子様はきらきら輝いて魅力的で、恋には時々どちらか一方をそう簡単には選べないような気がした。



「じゃあ質問を変えよう。上野と同じくらいには、僕の事を好き?」


 䄭風が聞いた。

 恋は頷いた。


「本当に本当?。良い?。僕嘘つき嫌いだからね。」


 恋が頷くと、䄭風はくすくす笑い出した。


「やっぱり。僕がちょっと後押しさえすれば、僕達は結ばれる運命なんだ。君は迷ってるんだね。」


 恋が俯くと、䄭風は優しい声で言った。


「迷って良いよ。もちろん。」


 それから䄭風は首を傾げて言った。



「新田さん、放課後、僕の家へ来ない?」

「ええっ」

「話したいんだ。色々。」



 䄭風は恋をまっすぐ見つめた。


「積もる話もあるし、僕も、新田さんに文句の一つも言いたいしね。」


 恋は困った顔で断ろうとした。

 䄭風は恋から目を逸らすと、あっさりした調子で言った。 



「来てくれなかったら、また僕は泣くしかない。」

「!。」

「新田さん、僕を泣かすの好き?。」



 首を傾げて覗き込むように言われて、恋は何も答えられない。

 閉じたカーテンの隙間から細く光が差し込んで来た。