社会のグループは調べものをする口実で学校のどの箇所にも移動できた。

 グループごとに好きな場所に行ってレポートを始められるので、恋のグループは屋上に行くことにした。




「嬉しい、新田さんと同じグループで。」

「ありがとう、樋山くん。理央はDで、明日香はEだったんだ」

「社会の時間伸びてくんないかな。こういうグループだったら大歓迎。上野も居ないし。」

「宗介はAだった。離れちゃったんだ。代わりに樋山くんが居てくれたけど。」








 ドアノブをカチャリ、と回すと、屋上は快晴で、青空が爽やかだった。


 クラスメートたちには真面目に授業をする気が少しもなかった。


「先生居ないね。好きな事できる。じゃあ、各自、テーマを決めるため、ちょっと自由行動しようか。なんてったって屋上だし。」

「良いね。」

「賛成。」








 恋と䄭風は屋上の縁まで来て、二人で街並みを眺めた。

 グラウンドの向こうに民家の並び、その向こうに商店街が見える。


「新田さんと上野が付き合いだして約半年経つ。覚えてる?僕が告白した時のこと。」


 ふと䄭風が聞いた。



「え、えーっと」

「覚えてないんでしょう。あんまりぼけっとしてたら、君のこと嫌いになるってあの時言ったよ。君は相変わらずぼけっとしてる。」



 それから聞いた。



「ねえ、新田さん、上野の何が好き?」

「何がっていうか……」

「幼なじみ。二人は。それでしょう?。まったく腹ただしい。」



 䄭風は塀を背中に寄りかかった。



「幼なじみっていうブランドの分だけ、僕が不利だ。そういう関係性ってそんなに大事だと思う?」

「いや……」

「子供だよ、そういうのに拘るの。君はどれだけ大切にされるかとか、どれだけ自分にとって有利かだけで考えた方が良い。もちろん、どれだけ真剣に想われてるかも含めてね。」



 䄭風はそこで言葉を切った。

 二人が無言になると、B班の残りの生徒達の話し声だけ風に乗って響いて聞こえた。

 恋の目をまっすぐ見つめて、䄭風は口を開いた。



「なんで僕じゃないの?」

「……。」

「僕は上野なんかより新田さんを大事にしてあげられるし、大事に思ってるよ。いつも新田さんのことだけ考えてる。言われたいこと言ってあげるし、されたいことしてあげるよ。」

「樋山くん……」

「どうして僕じゃないの?。言って、僕だって。」



 困り顔をした恋から目を逸らすと、䄭風はあっさり声の調子を変えた。



「ねえ、新田さん、今度、ショッピングモールにデートに行こうよ」

「えっ」

「二人で。お洒落して。試しに僕と付き合ってみてくれても良いでしょう?。」

「それは……」



『行ったらどうなるか分かってる?。』

 恋の頭の中に、宗介の顔が現れて、大きくなった。


 頭を抱えた恋が言い淀んで居ると、䄭風は屋上の床を見つめた。
 ため息をつく。



「君と上野が付き合い出したって聞いて、僕、ちょっと泣いた。」

「!亅



 恋は驚いた顔で䄭風を見た。

 宗介は滅多な事では泣かなかった。

 恋は、䄭風が泣くところが、一瞬、想像出来る様な気がした。



 黙っていた䄭風は口を開いて重々しく言った。



「デートしてくれなきゃ、また僕は泣くことになる。」

「……」

「新田さん、お試しでいいから、お願い。僕と付き合ってよ。」



 冷たい風が髪をさらって、青空へ戻っていった。