カーレースをするはめになった宗介は、むっつりした顔で、伊鞠の隣のゲーミングチェアに座った。

 最初の画面にはレース場と、スタイリッシュなレーシングカーが映っている。

 ハンドルで操作をするゲームで、ゲーム画面の前には本物さながらのハンドルが付いていた。



「ハンデ」

「は?」

「私レディよ。ハンデ貰うわ。」



 伊鞠が言って、伊鞠の方が先に車を選ぶことになった。


 

 一番速い青い車を選んだ伊鞠と、白い車を選んだ宗介は、恋や理央たちが見守る中、ゲームをスタートした。

 市松模様の旗が振られて、車が走り出す。

 レース場は坂がある舗装された道で、周りにデフォルトの観客が沢山居た。

 恋が見ているとコースはくねくねと曲がっていて難しそうだった。

 宗介は器用に曲がったコースを走り、アクセルを踏んで伊鞠の車に差をつけた。

 自分で言い出しただけあってに、伊鞠はカーレースが得意で、スピードを上げる宗介の車の横にぴったり横づけた。


 宗介は苛立った顔で無言でプレイしていた。

 宗介は相手が女の子だから加減しようというよりは、新聞部の攻撃がうざったくてただ本気で追い返そうとしていた。


 伊鞠の車が宗介の車を追い抜かそうとしたカーブで、宗介の車は、わざと伊鞠の車に車体を当てて追い払った。

 誰もが宗介の勝ちを予感していた時、予想外の出来事は起きた。

 最後の坂を登りきって、後少しでゴール、という所で、隣で観戦していた桂香が突然、横から手を伸ばして宗介のゲームのハンドルを切ったのだ。


 車はコースの塀にぶち当たり、横転してひっくり返った。

 と、その隙に、脇をすぐ後ろで出番を待っていたかのように青い車がスピードを上げて駆け抜けていく。

 Winner!、と伊鞠のゲーム画面に文字が現れて音楽が鳴った。


「勝った。」


 伊鞠が呟いた。


「はああ?」


 宗介が呆然とした顔で桂香を見た。



「反則を使わないとは言わなかったわ。これは我々新聞部のチームプレーの勝利ね。」

「最低」

「わあ、それチームプレーなんですね。」



 ポーズを決めた伊鞠と桂香と笑っている理央に、宗介は心底うんざりした顔をしてゲーム画面から離れた。