「昨日ゲーセンで欲しいストラップを取りそこねた」


 教室。朝のホームルーム前。

 恋を見るなり、理央は開口一番そう切り出した。



「ストラップって?」

「◯◯戦隊の公式ストラップ。後少しだったのに。ねえ、恋、どう思う?」



 理央は鞄を片手に恋を見下ろして、アンニュイな表情をした。



「ゲーセンって楽しいから、ついついお小遣い使っちゃうんだよね。置いてあるもの全部欲しいもん。」

「ゲーセンなんて、あんまり行かないけど。」

「え、そうなの?。私はしょっちゅう行くよ。ストレス解消に良い。あの楽しげな音楽も。カラフルなアーケードゲームも。」

「へえ……」

「恋。」



 後ろからロッカーに鞄をしまっていた宗介がやってきて恋に声をかけた。



「お前はそんな所行かなくていいの。うるさいだけ、あんなところ。駒井、そうやって恋に悪い遊びを教えないでくれない?」

「酷い言い方するなあ。ゲーセンにはゲーセンの良さがあるよ。上野くんが嫌いなだけでしょう?。」

「あんなの金使うばっかりで、なんのためにもならないし、そもそもわざわざゲー厶をしに行くなんて。気が知れないよ。無益。」

「行ってみたいけど……」

「やめな、恋。」

「行きたいよね?。やっぱり行きたいよね?。さすが恋は話が分かる。」



 理央は言葉を切った。



「今度の日曜、ストラップに再挑戦しに行くから、恋も一緒に行こうよ。」

「え、私も?」



 恋が聞き返した。



「上野くんは嫌いだっていうなら来なくても良いけど、みんなで行った方が楽しくない?。みんなでゲーセン、洒落込もうよ。」

「だから、恋を誘うなっていうのに。恋、行かなくて良いからな。」

「私は……」



 恋は、小さな声で、行ってみたい、と言った。



「決まり!。じゃあ日曜の朝から、駅前の新しいゲーセン行こ。」

「行かなくて良いって言うのに。もう、駒井は悪影響。」

「樋山くんも誘うから、上野くんもどうせ来るでしょ?。来なきゃ恋を盗られちゃうよ。」

「なんで樋山を誘うんだよ?。」

「これは恋の親友としての思いやり。」



 不満げな宗介に理央がきっぱり言った。



「揺れてる間は両手に花で過ごした方が、絶対楽しいもん。」

「はああ?」

「三角関係、見てるの楽しいしね。」



 苛立った顔をした宗介に理央が、どっちも応援してるよ、と笑った。