教室。朝のホームルーム前。

 恋が自分の席で荷物を整理していると、理央がやってきて声をかけた。



「恋、おはよう」

「あ、理央。おはよう」

「新しい教室もう慣れた?。教室綺麗だよね、小等部のより。なんか全部が新しい感じがしない?」

「分かる。2階なんだね、1年の教室って。ベランダがある。」

「新田さん」



 斜め前の席から䄭風が呼んで、恋を振り返った。



「一学期のこの席順、バッチリだね。やっぱり僕と新田さんは強い縁で結ばれてる。」

「調子乗んなよ」



 後ろの方の席から、宗介が忌々しげに声を掛けた。

 恋の席は窓側の前の方だったが、宗介の席は廊下側の一番後ろだった。

 宗介は席を立って荷物を置くと、理央の居る恋の机の近くにやって来た。



「恋、樋山と口聞くなよ。授業中いちゃついたら後でげんこ。後ろから見てるからな。」

「うざったいな。僕と新田さんの勝手だろ。授業中は喋れないから、お前たちの席が離れて嬉しい。そうこなくちゃ。」

「鬱陶しいんだよお前。恋は僕の彼女なんだから、いい加減諦めろよ。新学期なんだし、いい加減他の女子を探せよ。誰か居るだろ。誰だって良い。」

「嫌だ。新田さんじゃなきゃ。僕は一生を新田さんに捧げるんだ。上野はそのつもりで居ろよ。」

「忌々しい……本当に鬱陶しい。」

「知らない。新田さんさえ手に入れば。後はどうとでも好きに考えてくれていいよ。ね、新田さん」



 䄭風が自分に微笑み、宗介が自分を睨んだので、恋は困り果てた顔で理央を見た。

 理央はこの3人のこれには慣れっこで、少しも慌てた素振りを見せなかった。


「そういやさ、この学校、一学期の最初に追試のあるテストするんだって。昨日ママから聞いた。恋知ってた?」


 ショートヘアのヘアピンをいじりながら、理央が聞いた。


「ええっ」


 恋が声をあげると宗介が頷いた。



「知ってる。なんか学力測る大きいテストで、合格点に満たないともう一回やり直しなんだって。恋、お前には前にあるって教えたろ。」

「覚えてなかった……」

「言ったよ。勉強しとけって。人の話をちゃんと聞いてないから悪いんだよ。」

「上野くんと樋山くんはいつも成績トップだから関係ないじゃない。あーあ、私どうしようかなあ」



 理央が言った。



「理央より私だよ。だって理央、7割くらいはいつも取るでしょう?」

「恋、いつも点数どれくらい?」

「……くらい」



 恋が言うと、䄭風がくすくす笑い、宗介がはあ、とため息をついた。


「追試ねえ。僕には関係なさそうだけど。どんなテストなんだろ。いつ頃あるんだろうね。」


 頬杖をついた䄭風が言った。



「なんか抜き打ちであるらしいよ。日程言わないんだって。」

「どうしよう……」

「だーからちゃんと勉強しときなって言ったのに。普段からやらないからそうなるんだよ。」

「もし、新田さんが追試受けるなら僕も受けようかな。わざと落として。記念に。」

「樋山、恋に付きまとわないでくれない?。目障りなんだよ。そういうの。」



 チャイムが鳴ったので、宗介と理央は自分の席へ戻っていった。