本当は、宗介が言ったのは、どうするか見てな、という脅し文句だった。

 小狐はバタバタと宗介の手の中で逃げようともがいたが、放して貰えなかった。



 学校の裏山で狐から人に戻った恋は、袴姿の宗介から痛いげんこを一発と、䄭風から含蓄のあるお小言を沢山食らった。


「こら」


 宗介が言った。



「人前で狐にならないよう気をつけろっていつも言ってるだろ!。もう、ほんとに。よりにもよって部室で眠って変身するなんて。ああ、心臓が止まるかと思った」

「新田さん、ほんとに気を付けた方が良いよ。僕だからあれだけど、普通だったらこういう風にはいかないんだから。ああびっくりした。」



 䄭風が言った。



「寝てる間に狐になることがあるなら、外出中は眠くならないようにしなきゃ。もう絶対、外では眠るなよ。新田さん、ちょっと油断しすぎだよ。」

「わざとじゃないのに。」



 恋は文句を言った。


「わざとかどうかは関係ない。当たり前だろ。もう一回言うよ、恋、お前は気をつけなきゃならないの。ほんとに狐なんだから。僕の心配を何で分からないんだよ。」


 宗介は目を釣り上げて怒った。



「お前があやかし狐だってバレて、学校から追い出されたら?。テレビや雑誌に追い回される様になったら?。僕達の関係は破滅だぞ。それを何で分からないんだよ。」

「新田さん、人が狐に変身する確率、どれだけ珍しいか分かってる?。確かにこの地方はあやかしの人が多いけど、みんなひっそり生活してる。見せつけてる人なんて居ないよ。」

「樋山の言う通り。大抵、あやかしは怖がられて土地から追い出されるから、みんな隠れて生活してるの。それを邪魔する奴なんか居ないだろ。もしも僕から離れて暮らさなきゃいけなくなったら許さないから。」

「僕は狐好きだけど、狐自体を嫌がる人も居るし。学校で変身してもし変な生徒に捕まって保健所送りになったりしたらどうするんだよ。」

「裏山が近くにあるからごまかせる様なものの、もしこれがなかったら。ったく。考えなしなんだから。」

「新田さん、今日は誰にも変身するところを見られなかったんでしょう?」



 䄭風が聞いた。



「多分……」

「良かった。じゃあ先生達はただ狐が出たと思ってるだけだな。わざわざ疑わないだろうし。まさか部室で眠り込んだ新田さんが狐に変身したとは思わない。本当に、次はないよ、新田さん。」



 䄭風がため息をついた。



「とにかく。過失でも。次やったらただじゃ置かない。やったらげんこ、思い切り。痛いから覚えなね。お前は今後絶対、外で狐にはならない。約束。分かった?。」

「僕もそうする。これは協定。新田さん、いい?。分かった?。」

「返事。」



 2人に睨まれた恋は、ぶーたれていたが、そうしないともっと怒られる事になるので、はい、と仕方なく返事した。


 その時の事があったので、恋は、なんとなく気がひけて、部活動に入るのを辞めてしまった。

 結局、恋は、帰宅部で、いつも家でうだうだしてばかり居た。