学校から帰った恋は、宗介の家に来ていた。

 連日の体育祭の練習で、恋はちょっと疲れていた。

 宗介がお盆にお茶とお菓子を乗せてキッチンから出てくる。


「今日も体育祭の練習、昨日も体育祭の練習。これじゃあ他の事をする時間がなくなっちゃうね」

 
 恋はソファに寄りかかって言った。



「みんな燃えてるもんね、白組勝とうって。」

「僕はそんな事ない。どこが勝ったって構わないし、必要以上にやる気はない。面倒くさ。」



 宗介はお茶を一口飲むと口を開いた。



「新聞部の先輩。あれ、どうにかなんない?。特ダネ特ダネって、今日も教室来てた。」

「イケメンペアっていうのが、余っ程珍しいんだろうね。」

「恋はあいつらに構うなよ。聞かれても答えないこと。あの先輩たちがネタにしてるの、僕達に対して失礼だからな。」

「うん、分かってるよ。」



 恋の答えを聞きながら、宗介はふと、恋の半ズボンの膝に擦り傷があるのに目を留めた。


「あ、こら。」


 宗介が言った。


「まーた怪我して。」


 宗介は立ち上がってダイニングの棚から救急箱を出して来ると、蓋を開けて消毒液を出した。


「しみるから嫌だよ。」

「平気。」


 宗介は自分の事のようにそう応えると、コットンに消毒液を含ませて傷口を拭いた。


「まったく。擦り傷なんて作ってこないの。」


 傷口に絆創膏を貼りながら、宗介が言った。


「お前はいつも不注意なんだから。心配するだろ。気をつけないのが悪いの。……ああ嫌だ嫌だ、ほんとに。体育祭、早く終わんないかな。」


 ぽんぽん、と仕上げに叩かれた絆創膏の傷を見ながら、そうだね、と恋はなんとなく返事をした。