体育祭の練習はいよいよ本格的になってきた。

 授業を丸一日使った1年から3年までの合同練習がある日も、珍しくはなくなってきた。

 合同練習の初日、リレーの練習の後、宗介と䄭風は嫌そうな顔で二人三脚の列に並ぼうとしていた。


「足の紐を結んであげる」


 自分の出場種目が終わって、戻ってきていた恋が困り笑いで言った。



「2人とも足早いから。やっぱり多分学年で五指に入るってまた言われてるよ。」

「だるい。出たくない。何でこいつと。」



 宗介が言った。


「こっちのセリフ。今まで生きてきた中で最悪の思い出だ。」


 䄭風が暗い顔で言った。



「見に来る家族も、僕がこいつ大嫌いなの知ってる。みんな僕を気の毒に思ってる。」

「決まっちゃったんだからって言うけど、何で?。変更不可って意味分かんない。」



 宗介が言った。



「そういう融通は利かせるべきだ。相性悪い奴とペアな時点で、負け決定。」

「僕は足の速さはピカいちなんだ。上野のせいで負けるんだからな。」

「はあ?」

「お前とペアになって、気分は最悪だ。鬱になりそう。新田さんを手放すなら、大目に見てやってもいいけど。」

「ふざけんなよ。僕が恋を手放す訳ないだろ。」

「まあまあ」



 理央がやってきて、2人を宥めた。



「2人とも俊足だからだよ。ねえ知ってる?。上野くんと樋山くん、この学校きってのイケメンペアってみんなに言われてるよ。恋と一緒に、イケメンペアの三角関係って言われてる。」

「イケメンペアの三角関係?」

「顔の事で騒がれるの好きじゃない。みんな顔しか見てないんだから。」



 䄭風がそう言ったところで、突然、後ろからパシャっとシャッター切る音がした。


「ちょっと君たち!。」


 恋達が目をパチクリしていると、後ろから茶髪のポニーテールの背の高い女の子と、黒髪のおかっぱでメガネをかけている女の子が現れた。

 2人とも、ジャージの上から胸にカメラを下げている。



「誰?」

「以降お見知り置きを。私が新聞部の加納伊鞠、こっちが石巻桂香よ。」

「……3年」



 背の高い方が自己紹介すると、メガネの方がぼそっと呟いた。


「って事は先輩かあ。何か用ですか?」


 いつもフレンドリーな理央が聞き返すと、伊鞠は芝居がかった仕草で宗介と䄭風を指差した。



「その2人」

「?」

「この体育祭の新聞のメインよ。1年のルーキー二人三脚イケメンペア!」



 伊鞠の剣幕に圧倒されていると、桂香がカメラを取って、いきなり2人にシャッターを切った。



「!?」

「ねえ上野くんに樋山くん。今年の体育祭の新聞のメインになる気持ちはどう?」

「はあ?」



 宗介が眉をひそめた。

 䄭風が言った。



「肖像権の侵害。僕はこいつと居る所を写真に撮られたくない。」

「僕だって。」

「義務よ。君たちの。」



 伊鞠があっさり言った。

 それからいきなりガバっと回転して伊鞠が恋の方を向いたので、恋は驚きで一瞬固まった。


「時に。」


 伊鞠が言った。



「時に……えっと、この子が恋さん?」

「ええ恋ですよ。新田恋、1年の。」



 理央が言うと、伊鞠は嬉しそうな顔で恋の方を見た。
 それから言った。


「新田さん。さっき小耳に挟んだけど、あなた1年のイケメンペアの三角関係の中心なんだって。あなたとこのイケメンたちの関係を深く深く教えて貰えるかな?。」


 ハアハアと息遣いが荒い伊鞠を見て、宗介が言った。



「先輩。ちょっと、先輩達怪しいんで。恋に口聞かないでもらえますか。」

「そうそう。変な人に新田さんに近づいて欲しくない。」



 䄭風が言うと、伊鞠は鼻で笑った。


「変な人じゃないわよう。私達は新聞部のホープ。」


 伊鞠は続けた。


「何が何でも取材させて貰いますからね!。」


 伊鞠は声音を変えた。



「時に新田さん。あなたはこの二人、どっちの恋人?」

「僕」


 
 宗介が応えた。



「あなたたちは三角関係だって言うけど、それは本当?。」

「関係ない。学校の新聞に。」



 䄭風が腹を立てて言い返すと、その顔を桂香がパシャリと撮った。


「……美しい」


 桂香が呟いた。


「この綺麗な顔の二人の三角関係、絶対メインの特ダネになるわ!。」


 伊鞠がそう叫んだ時、チャイムが鳴った。
 

 またまたどうなることやら。