朝。

 ベッドの中で、新田恋(にったれん)はまどろみながら、夢を見ていた。

 夢の中に幼なじみが出て来た。

 夢の中で、幼なじみは恋を抱きしめて、何があってもお前と離れない、と言った。

 その甘い言葉が現実なのか夢なのか、恋には分からなかったので、恋はただふにゃふにゃ言いながら、照れて笑った。

 と、恋の耳に、苛立った声が聞こえた。


「入学早々これね。まったく。馬鹿なんだから。」


 恋が薄目を開けると、黒い目、黒いサラサラの髪。
 自分を見下ろす幼なじみ、上野宗介(うえのそうすけ)の整ったしかめっ面が目に飛び込んできた。


「こら恋。」


 宗介が口を開いた。


「遅刻だよ。いつまで寝てるつもり?」


 恋は、寝ぼけ眼で枕元の時計を見やった。
 ぼんやりと文字盤を見ると、時刻はもう7時半。


「わっ。」


 慌てて起き上がった恋に、壁に寄りかかって腕を組んでいた宗介は、怒り笑いで洋服掛けから真新しい制服を取った。


「3分以内。顔洗って着替えて朝食。はやく。」


 制服を受け取った恋は慌てて洗面所へ向かった。