〇場面展開:学校・教室(1限目の前)
由仁「聖良おそい!休みかと思った!!」
教室に着いた聖良にすぐさま駆け寄る由仁。
由仁のほっぺはぷくーっと膨らんでいる。
由仁「昨日どうだったのよ!?連絡1つ寄越さず……心配したよ、もー!!!」
聖良「ほんっとーにごめん!!!」
すごい勢いで詰め寄る由仁に、聖良は深々と頭を下げる。
聖良(昨日、家に帰ってスマホを見たら由仁からたくさん連絡が来てたんだよね。だけど私、返事をする余裕がなくて……由仁が怒るのは当然だ)
由仁は口を尖らせ、腕を組む。
由仁「山下くんから連絡きてたけど、”速石さん途中で消えちゃった”とか言われるし、雨めっちゃ降るし……超超超心配した!!!」
聖良「ごめんね、ちょっと、……いっぱいいっぱいで」(ごめんだけじゃ足りないや……)
俯く聖良。
由仁はため息を吐くと、口を開く。
由仁「……もういい加減、話してくれるよね?」
聖良「……へ?」
ピンときていない様子の聖良。
由仁「私が気付いてないとでも思う?」
呆れたように笑った由仁に、聖良はようやく察する。
聖良「由仁……」(きっと、仁科くんのことだ)
聖良はぎゅっと、由仁を抱きしめる。
聖良「……黙っててごめん」(よく考えたら、気付かれて当然だ。だって聖良は恋愛経験が豊富な上に、勘もいいし)
由仁「……うむ。許そう」
本気で謝る聖良を見て、由仁は大きく頷く。
由仁「今日は昼休み、倫太郎とお菓子食べる会は中止。2人で語ろう!」
聖良「うん……!」
由仁と聖良はこぶしを突き上げる。
聖良(色んなことがあって、今はもう仁科くんのこと好きじゃない……けど。そうなった経緯も全部、由仁に話そう。
そしたらちょっと、気持ちがすっきりするかもしれないし)
〇場面展開:学校・空き教室(昼休み)
机にお弁当を広げる聖良と由仁。
聖良「実は1年くらい前から、仁科くんに片想いしてました……」
聖良が緊張した面持ちで言うものの、由仁は全く驚かない。
由仁「私が気付かないわけないじゃん」
聖良「いや、まぁ……」
由仁「聖良、仁科くんのこと見過ぎだし、表情もわかりやすいし。なんでいまだに恋愛マスターって呼ばれてんのか、理解できない」
聖良「おっしゃる通りでございます……」
由仁「正直ずーっと前から気付いてたよ。だけどね、ちゃんと聖良の口から話してほしかったんだもん」
聖良「遅くなってごめんね……」
しゅんとした様子の聖良。
由仁はやれやれと言わんばかりにため息を吐く。
由仁「私も、わかってて意地悪してごめん。男の子紹介するって言ったら、さすがに打ち明けてくれるかと思ったんだよね〜。それでも言ってくれなかったけど(笑)」
聖良「ご、ごめん〜」
由仁「あ、安心してね。山下くんには事前に、”聖良は他に好きな人いるから1回遊ぶだけだよ”って伝えてあるから」
聖良「さ、さすが由仁」(抜かりないな……)
嬉しそうにウインナーを口に運ぶ由仁を、ボーッと見やる聖良。
聖良(由仁は優しくて気遣いできる子だから……きっと私みたいに、人に迷惑ばかりかけること、ないんだろうな。あんな風に──)
ベンチに置いて行った山下、びしょ濡れでシャワーが空くのを待っていた仁科を思い浮かべる聖良。
聖良(……話さなきゃ)「……あのね。昨日山下くんと遊んでるとき、途中で抜け出したのはね」
由仁「うん」
聖良「仁科くんを見かけたからなの」
由仁「え!?」
それから聖良は、仁科との間にあった出来事を身振り手振り由仁に伝える。
由仁は目を丸くする。
由仁「……まさか、そんなことになってたとは」
聖良「だよね……」(口に出してみると……改めてちょっと、信じられないや)
由仁「ヤバそうな匂いはしてたけど……なかなかだね、仁科くん」
聖良「えぇ、匂いしてた!?私全然わかんなくて、ただただミステリアスでかっこいいって思ってたよ……」
由仁「そりゃあかっこいいよ。だけどかっこいいのに女の気配を感じさせないとことか、さらっとなんでもこなすところとか、いつも涼し気なところとか……なんか逆に、怪しいじゃん」
聖良「な、なるほど……」
由仁がテキパキ説明すると、聖良は納得する。
聖良(そうか、そういう雰囲気だけ見てかっこいー!って思うのは危険なんだ。一旦怪しんだ方がいいんだ。……覚えておこう)
由仁「……でも仁科くん、話聞いてる限りだと悪い人ではなさそう」
聖良「え、そう!?」
由仁「だってヤろうと思えばヤれたと思うし」
聖良「なっ!」
由仁の言葉に真っ赤になる聖良。
由仁「聖良が鈍臭いだけで、基本的には親切じゃん」
聖良「うっ……」
由仁の鋭い指摘に聖良は言葉を詰まらせる。
由仁「まぁ確実に手練れているだろうから……聖良、気を付けなよ?」
由仁は少しワクワクしたような表情で聖良に忠告する。
聖良「き、気を付けるもなにも……もう、好きじゃないから大丈夫」
由仁「はぁ?」
由仁は聖良に、じーっと疑るような目を向ける。
由仁「想像と違ったから好きじゃない、っていうのは違うかもよ?」
聖良の心臓がドキッと反応する。
由仁「イメージ通りの人なんていないんだしさ。……聖良が1番わかってるでしょ?」
聖良(聖良の言っていることはごもっとも。)
(だけど……からかってばかりの意地悪な人のこと、好きだって思うのはちょっと違うかなって)
由仁「むしろ意外な一面知ったことで、もっとハマっちゃったりして」
聖良「そんなのありえない……っ!」
思わず机に身を乗り出す聖良。
反動でお弁当箱の中身が揺れる。
由仁「ほんとにー?」
聖良「意地悪な人なんて嫌だもん……!」
〇場面展開:学校・教室(翌朝)
聖良は先日の仁科を思い出す。
仁科『来る前、連絡して』
聖良は自分の席に座って、仁科の連絡先が表示されたスマホを眺める。
聖良(──そう言われたけれど、この連絡先の出番が来ることはないかも。だって……)
聖良はチラリと自分の机に掛かる紙袋を見る。
中には仁科のパーカーが入っている。
聖良(借りていたパーカーは、学校に持ってきたから!……家に行くのはさすがに、ね)
〇場面展開:学校・教室(5限目)
キーンコーン……とチャイムが響く。
聖良は机に項垂れる。
聖良(もたもたしてたら、5限目終わった……!)
腕と机の間から目を覗かせ、チラリと机に掛かる紙袋を見る聖良。
聖良(次の授業が終わったらすぐ、返しにいかなきゃ……って、たしか次、全クラス合同授業だ)
聖良は朝、担任が「6限目の総合学習は体育館で合同授業となったー。お前ら先日の中間テストの結果がよくなかったからな。学年主任からのありがたいお言葉きちんと聞くんだぞー」と言っていたことを思い出す。
由仁「聖良〜体育館行こっ」
聖良「うん!」(合同授業が終わったら速攻で返しに行く……!)
〇場面展開:学校・体育館(6限目)
クラスごとで名簿順に並んで座る聖良。
ふと嫌な予感がする。
聖良が恐る恐る隣を見ると、そこには仁科がいる。
仁科「……あ、速石さん」
仁科はふっと笑う。
聖良(なんでよりによって……!)
ぐるんと、首を反対側に捻る聖良。
心臓がドキドキとうるさくなる。
聖良(このドキドキは……あれだ、いきなり声を掛けられてびっくりしたから!)
聖良はシャツの胸のところをぎゅうっと掴む。
学年主任「お前らここに集められた理由わかってるな?この前のテストの結果だが──」
先生が話し始めたタイミングで、聖良の前に座るすみれがくるりと振り向く。
すみれ「ねー、聖良~」
聖良「どうしたの?」(あー……これはきっとまた、恋愛相談だ)
聖良は恋愛マスターのスイッチを入れ、キリッと顔を作る。
すみれ「この前言ってた彼氏とさぁ、結局別れたの~」
聖良「えぇ、そうなの!?」
すみれ「うん。なんかやっぱり、ちょっとでも不安要素のある人って嫌じゃない?」
聖良「確かにねー……」(ごめんすみれ……頷いてるものの私、そんな経験本当はないの。っていうか)
ちらりと仁科の方を見る聖良。
仁科は前を向いて先生の話に耳を傾けている。
聖良(仁科くんが隣にいると、なんだか話しにくいや。……どうか仁科くんに、話しの内容聞こえていませんように)
仁科「……」
すみれ「話し聞いてくれてありがとね、聖良」
聖良「ううん……でも、よかった。すみれ、前よりすっきりした顔してるし」
聖良の言葉に、すみれの表情はパァっと明るくなる。
すみれ「そうなの!わかる!?さすが聖良~」
聖良「あ、あはは」
聖良はぎこちない笑顔を浮かべ、地面に手を付く。
そこにはちょうど仁科の手が置いてあり、聖良は仁科の上に手を重ねてしまう。
聖良「っ!」
反射的に手を避ける聖良。顔が真っ赤になる。
仁科は聖良の方を見る。
すみれ「聖良?どうしたの?」
聖良(あ、危な……!今は周りにみんないるんだ)
冷静になった聖良の顔からは一気に赤みが消え、すんっとした表情になる。
聖良(男の子と手が触れただけで焦ってたらダメだよねっ)「む、虫がいてさ~」
すみれ「え、やだ!」
仁科「……」
仁科は不満げな様子で聖良を見る。
聖良「大丈夫、もうどっか行った!」
あはは、と頭を掻く聖良。
聖良の肩にふわっと仁科の手が触れる。
聖良「!?」
仁科「虫、いたかも」
聖良「なっ」
仁科の手を避け、触れられたところを手で隠す聖良。
すみれ「え、どこどこ!?」
仁科「あー……ごめん、気のせいだった」
すみれ「よかった~」
安堵の溜息を吐くすみれ。赤面を隠すように俯く聖良。
仁科は聖良に向かって、べーっと舌を出す。
聖良(くそ~っっ)
〇場面展開:学校・隣の教室(6限終わり・休み時間)
聖良(またからかわれた!仁科くんの意地悪!)
聖良はプンプンしながら、紙袋を持って隣の教室へ向かう。
聖良(とっとと返して、もう仁科くんには近付かない!)
隣の教室に着くと、扉の手前でギャル系女子2人に声を掛けられる。
ギャル系女子A「聖良じゃん~」
ギャル系女子B「どしたの?」
聖良「あーちょっと、仁科くんに用事があって」
ギャル系女子A「仁科?めずらしーね」
ギャル系女子B「なんか渡すの?……ん?」
ギャル系女子Aが紙袋の中を覗き込む。
聖良(しまった……!)
聖良はハッとする。
聖良「こ、これはっ」(私が仁科くんにパーカー渡すって……なんか変な誤解が生まれそうな気がする!)
ギャル系女子A「……えーなにこれ、パーカー?」
ギャル系女子B「あ、ほんとだぁ」
顔を上げたギャル系女子2人は目を輝かせる。
ギャル系女子A「2人って……服貸し借りする関係なの?」
ギャル系女子B「もしかして、お泊り……?」
聖良「い、いやぁ……」
鼻息を荒くする2人に、聖良は内心頭を抱える。
聖良(やっぱり……!2人とも完全に、私と仁科くんの間に何かあるって思い込んでる……)
表向きには笑顔を崩さず冷静な聖良。
聖良(どう対応するのが正解なんだろう。否定しても疑われそうだし……
雨宿りさせてもらってた~なんて言っても、結局変な想像されそう)
ギャル系女子2人はキャーキャーと騒ぐ。
ギャル系女子A「なんか、やらしいっ」
ギャル系女子B「どういう関係なのっ!?」
周りの視線が集まり始める。
聖良(……あー、もうっ)
聖良は紙袋を持つ力をぎゅっと強め、にこっと微笑む。
聖良「想像に任せるよー」
(この返答だったら嘘をつくことにならないし……がっかりもされないよね)
ギャル系女子A「ひょー!大人ぁ~」
ギャル系女子B「さっすがぁ~!」
注目をされていたため、クラス中ががどよめく。
聖良(また無駄に目立っちゃった……)
聖良は小さくため息を吐く。
聖良(大人っぽい自分を演じることを窮屈に感じてるくせに。結局自分で首を絞めてる。……私の意気地なし。誤魔化してばかりじゃ、苦しいだけなのに)
聖良が自己嫌悪に陥っていると、背後から仁科が現れる。
仁科「俺らって、どんな関係なの?」