ルベリアに揶揄われて逃げるように部屋に戻ったイーヴは、皺の寄った眉間を揉みつつソファに腰を下ろした。

 うっかりいつもの癖でシェイラの頭を撫でてしまったが、にやにやと笑みを浮かべたルベリアの表情を思い出すと、うかつだったなとため息が漏れる。あとで揶揄われること間違いなしだ。



 シェイラの生い立ちを知るたびに、イーヴは苦しくなる。生贄となるその日までただ生かされただけ、と言うのがぴったりなほどに抑圧された彼女の生活。ドレージアで見るものすべてに目を輝かせるその姿は、彼女がこれまでどれほど虐げられて育ってきたのかを思い知らされる。

 なのにシェイラ自身はそれを問題だと思っておらず、何がいけないのかと首をかしげるばかり。

 そのうえ故郷のためにと身体を捧げるような真似までされて、その危うさにイーヴは胸が痛い。

 イーヴだって健全な男だし、無邪気な顔をして抱いてほしいと口にするシェイラを見て何も思わなかったわけではない。だけどそれに流されるのだけは絶対してはならないと腹に力を込めて雑念を振り払った。もしも欲に負けて彼女を抱いてしまったなら、国のために生贄として喰われることが定めだと言い聞かされて育ったシェイラのその間違った考えを、肯定してしまうと思ったから。