「ちゃんと掴まってろよ」

「はぁい!」

 シェイラがたてがみをしっかりと握りしめたのを確認して、イーヴがふわりと空へ飛び上がった。巨大な体躯に対して、その動きは驚くほど静かだ。

 きっとシェイラが落ちないように気をつけて飛んでくれているのもあるだろうけど、乗り心地はとても良い。少しだけ硬いたてがみを指先で弄ぶように絡めながら、シェイラは周囲を見回した。

 あっという間に空高く飛び上がったからか、頬に感じる風は少し冷たい。だけどしっかりと厚着をしているから、その冷たさが逆に気持ちいいほどだ。

 ここに初めて来た時も思ったけれど、ドレージアはとても大きな国だ。たくさんの屋敷が集まる居住区の他にも、高くそびえ立つ山や青々とした森があり、そして美しい水の流れる川もある。

 川から流れ落ちた水は、きっと雲を抜けてシェイラの故郷に雨を降らすのだろう。

 陽の光を浴びてきらきらと輝きながら地上へ落ちていく川の水には、小さな虹がかかっている。ふわふわと浮かぶ雲も柔らかそうで、手を伸ばせば届きそうだ。

「わぁ、虹! すごく綺麗……!」

「なら、もう少し近づこうか」

 そう言って、イーヴがすいっと向きを変える。

 ふわりと頬を撫でるような感覚は、雲に触れたからだろうか。

 まるで虹をひとりじめしているかのような気持ちになって、シェイラは思わず歓声をあげた。

 細かい霧のような水飛沫でしっとりと頬を濡らしながら、シェイラは興奮して声をあげっぱなしだった。