「一口、飲んでみるか」

「いいんですか?」

「苦いからな、覚悟して飲めよ。あと熱いから火傷するなよ」

「はい!」

 元気よく返事をして、シェイラはゆっくりとカップに口を近づけた。真っ黒な波打つ水面に、シェイラの顔が映る。苦みのある、だけどどこか果実を思わせる柔らかな香りが鼻腔をくすぐって、シェイラはすんと小さく鼻を鳴らした。

 恐る恐る、舐めるほどの量を口に含んでみたものの、シェイラの表情は眉を寄せて固まった。



「にがい……」

 薬湯の渋いような味とはまた違って、少し酸味のある苦さ。だけど、美味しいとは全く思えない。本の中に出てきたときは、どんな味がするのだろうとわくわくしたのに。イーヴだって平然とした顔で飲んでいたから、苦くても美味しいものだと思っていたのに実際は全然だった。

 涙を浮かべたシェイラを見て、イーヴは小さくふきだした。

「だから言っただろう、苦いと」

 笑いを堪えるように肩を震わせながら、イーヴはそばに控えるレジスに目配せをした。

「ミルクたっぷりで淹れてやってくれ」

「かしこまりました」

 うなずいたレジスがシェイラのもとに持ってきてくれたのは、薄い茶色をした液体。だけどほんのりコーヒーの香りがする。

「ミルクと砂糖を入れれば、シェイラも飲めるかもしれない」

 イーヴに促されて、シェイラはゆっくりとカップを口元に運ぶ。

 警戒していた苦みはミルクと砂糖でまろやかになり、風味だけが口に残る。微かに感じる苦みが、癖になりそうだ。