「その、服は」

 ふいにイーヴが声をあげたので、シェイラは一瞬身体を震わせて顔を上げた。

「はい」

「エルフェが選んだのか、その服は」

 不似合いだと言われるのかと思ったが、見つめるイーヴの視線は案外柔らかい。シェイラは、黙ってこくこくとうなずいた。

「よく似合ってる。ただ、少しシェイラには大きいと聞いた。明日には仕立て屋を呼んで、身体に合うものを新しく作らせるから」

「そんな、このままで平気です。新しいものなんて……、必要ないです」

 首を振るシェイラを見て、イーヴは少しテーブルに身を乗り出した。体格のいい彼がそうすると、それだけでシェイラとの距離がぐんと近づいたような気がする。驚いて思わず身を引くと、イーヴは慌てたように椅子に座り直した。

「ここは、ラグノリアとは違う。ドレージアの民は迎え入れた花嫁を大切にすると決めている。シェイラを生贄だと思う者は、ここにはいない」

 イーヴの口から直接、生贄ではないと断言されて、シェイラは小さく息をのんだ。彼の言うことを、信じてもいいのだろうか。

「本当……に?」

 それでもまだ不安に声を揺らしながら、シェイラはつぶやく。

「私は、生贄として喰われるのではないんですか?」

「喰う……? それはないな。そもそも竜族は、人を喰わん。竜に姿を変えることはできるが、それ以外はシェイラたち人間とそんなに変わらないぞ」

 酷い誤解だなとイーヴは苦笑した。少し釣り上がったその目は冷たそうなのに、見つめる金の瞳は柔らかな色をしている。