高校に、由良くんがいたのだ。大人っぽく成長していた。丸みを帯びていた輪郭はシャープになり、目鼻立ちは凛々しく、眼差しや唇はクールで、無造作な黒髪は色っぽい。細かった体が、いい具合に逞しくなっていた。
 谷先輩より、数百倍かっこいい!!

「私の王子様は、やっぱり由良くんしかいない!!」
 
 だけど、運命を感じたのは私だけじゃなかった。
 同じクラスの高梨ひなが、「絶対に由良くんと付き合う。これは運命の出会い!」って、ひとり勝手に盛りあがっている。
 高梨ひなが、飛び抜けて可愛いのは認める。けれど、プリンセスじゃない。だって、人の彼氏を欲しがるって噂だ。
 高梨ひなも「人のものって、良く見えるんだよね」と、いけしゃあしゃあと言っている。
 顔はプリンセスだけど、性格は魔女って感じ。王子様の隣に魔女は似合わない。

 私は、由良くんを見つめ続けた。気がついてほしかった。

「あれ? もしかして、川瀬さん? 綺麗になったね」

 そんなふうに、由良くんにも運命を感じてほしかった。
 それなのに、一度だってこちらを見ない。視線が合うことがない。
 由良くんは、寂しそうな目をしていた。孤独感の強い雰囲気に、「クール」「ミステリアス」「群れないところがかっこいい」「私が由良くんを笑顔にしたい!」女子たちは騒いだ。
 だが、私の感想は違う。由良くんの視線の先には──鈴木ゆらりがいた。
 鈴木ゆらりは生意気にも、由良くんを見ない。そのことに、由良くんは寂しがっているようだった。

「ぶらりのくせに生意気! ふざけんなっ! 死ね!! 貧乏人のくせに、生きてんじゃねーよ!!」 

 悔しい悔しい悔しい!! なんで、ぶらりなわけ? ぶらりのどこがいいの? 私のほうが何十倍も可愛いのに!!
 怒りが沸く。ぶらりと目が合うたびに、威嚇してやる。そうするとぶらりはおどおどして、気弱な表情でうつむく。
 私はだいぶ賢くなった。表立っていじめたりはしない。私の評価が下がるからだ。いじめは、バレないようにやるもの。

 ぶらりは身の程をわきまえて、由良くんを避け続けるべきだった。なのに、勘違いをしてしまったようだ。
 九月の雨の日。昇降口で、由良くんはぶらりを傘に入れた。ぶらりは由良くんと並んで歩きだした。
 私は二人の後をつけた。雨音に混じって、ぶらりの笑い声が聞こえた。
 由良くんと別れた後。ぶらりは、幽霊でも出てきそうな汚いアパートの二階に入っていった。

「さぁて、どうやっていじめてやろうかな」

 シンデレラは、美人だったから王子様に見初められたのだ。鈴木ゆらりごときがシンデレラになれるだなんて、勘違いをしてはいけない。そのことを教えてあげなくてはならない。