四歳の頃の記憶。 
 夜。お腹が痛くて一階に下りて行くと、父と母が言い争っているのが聞こえた。

「おまえが神経質だから、水都も神経質になるんだ。もっとおおらかな気持ちで子育てを……」
「幼稚園に行くのを嫌がってトイレに閉じこもるのを、よくできましたね、素晴らしいですね。なんて、笑って見ていろって言うの⁉︎」
「そんなこと言っていない!」
「あなたは仕事に行けば逃げられるでしょうけれど、私は一日中あの子といないといけないのよ! 頭が変になりそう!!」
「俺だって協力している!」
「だったら、吐いたものの始末をしたことがある? 今度からは、あなたにお願いするわ。吐いたものの始末をして、床を拭いて、洋服を手洗いして……」

 廊下にまで聞こえてくるほどの、長いため息が聞こえた。

「だから子供はいらないって言ったんだ。子供は苦手だ。おまえが責任をもって育てるというから、仕方なく……」
「だってあなたと私の遺伝子を持った子供なら、どんなに素晴らしいだろうって、夢見てしまった。いまさら、しょうがないじゃない! 産む前には戻れない。水都みたいな難しい子が産まれるってわかっていたなら、産まなかった! なんで私たちの子供が、水都なんだろう。どうして、なんで……」

 母の啜り泣きが聞こえた。父はなにも言わない。
 ボクはそっと、階段を上った。自分の部屋に戻る。ベッドに潜り込むと、お腹に手を当てて丸まった。

「おなかいたい。きもちわるい……」

 じわりと涙が浮かぶ。涙は引力のままに流れ落ちて、枕を濡らす。

 ボクは生まれないほうが良かったのだ。生まれてはいけない子だった。でも、生まれてしまった。どうしたらいいのだろう。わからない。苦しい。お腹が痛い。気持ち悪い。頭が痛い。けれど、親には言えない。苦しい。